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電子処方箋とは?導入メリットや運用の課題点を解説

電子処方箋とは?

電子処方箋とは?

医療機関で医師の診察を受けて、薬を服用する必要があったとき、医師が処方箋を出します。患者は処方箋を調剤薬局に渡し、調剤薬局の薬剤師がその処方箋に基づいて薬を用意し、患者に渡します。これが、医師から薬を処方されて患者が受け取るまでの従来の流れです。しかし紙で手渡しする処方箋では、紛失時や災害時などにどんな薬を服用していたか管理が難しいことがあります。そこで、紙ではなくオンラインで処方箋を管理するのが「電子処方箋」です。
医療機関と薬局がオンライン上で情報共有を行えば、双方で服薬管理を効率的に行えるようになります。またこれまでは、服薬していた薬を「お薬手帳」で管理していた方は、電子処方箋ができるとオンラインで服薬履歴を管理できるようになり、記入漏れや記入ミスなどを防げて、健康管理につながります。もし緊急で手術などの処置が必要になった際、電子処方箋が導入されオンラインで服用歴や手術歴などを確認できれば、より適切な対応が可能になると期待されるのです。

電子処方箋の本格運用に向けた取り組み

日本では、電子処方箋を本格的に導入するため、厚生労働省が運用のためのガイドラインを作成し、さらに企業による実証実験が行われています。

「電子処方せんの運用ガイドライン」の策定

処方箋は、医師から薬剤師へ処方内容を正しく伝える手段であるだけでなく、患者にとっても処方の内容を知ることができる大切な医療情報です。この情報をオンライン化することで、医療機関と薬局の連携をさらに図り、患者自身の服薬管理にも役立てるため、厚生労働省は2016年3月、「電子処方せんの運用ガイドライン」を発表しました。のちに、2020年4月に一部を改正した「電子処方箋の運用ガイドライン第2版」が発表され、電子処方箋引換証は不要とする仕組みに変更されました。

電子処方箋が運用されるプロセスは次のようになっています。

  • 医療機関で医師が電子処方箋を作成する。
  • 医療機関が、電子処方箋が管理されている「電子処方箋管理サービス」にアクセスコードと確認番号の発行を要求し、作成した電子処方箋を送信し、登録される。
  • 医療機関がアクセスコードと確認番号を患者に公布する。
  • 患者が薬局でアクセスコードと確認番号を提示する。
  • 薬局は「電子処方箋管理サービス」に、アクセスコードと確認番号をもとに電子処方箋を要求。受信した電子処方箋をもとに調剤し、患者に薬を交付する。
  • 薬局の薬剤師は、調剤結果を作成し「電子処方箋管理サービス」へ送信し、登録される。

出典:厚生労働省より「電子処方箋の運用ガイドライン 第2版」

以前のガイドラインでは「電子処方箋引換証」の発行のプロセスがありましたが、2020年4月に一部を改正した「電子処方せんの運用ガイドライン第2版」が発表され、電子処方箋引換証は不要とする仕組みに変更されました。

企業による「実証事業」の実施

電子処方箋を本格運用するにあたり、より効率的な運用の仕組みを構築するため、これまで企業による実証事業が行われています。株式会社メドレーは、2018年12月に厚生労働省から「電子処方箋の本格運用に向けた実証事業」を受託。メドレーでは「電子処方せんの運用ガイドライン」にこだわらず、より効率的な仕様で評価用システムを開発し、2019年2月初旬から3月まで実証実験を行いました。
その結果、電子処方箋を発行した76例のうち64例で、スムーズに調剤まで完了。残りの8例については、処方箋への未記入項目があった等で、事実的には評価用システムのトラブルは起きなかったという結果になりました。
メドレーではこの実証事業の結果を報告書にまとめ、考察やより望ましいシステムについて言及。これらを参考にして今後もさらにシステムの改善などが検討されることとなります。

出典:厚生労働省より「平成30年度電子処方箋の本格運用に向けた実証事業最終報告書(平成31年3月29日公表)」

電子処方箋のメリットとは?

電子処方箋のメリットとは?

なぜ、このように大がかりな電子処方箋導入のための準備が行われているのでしょうか?それは、電子処方箋によるメリットが、医療機関や薬局、患者の双方に数多くあるからです。

医療機関・薬局における主なメリット

医療機関と薬局から見た電子処方箋の一番のメリットは、処方に関する情報共有がしやすくなることです。薬局で処方箋の内容に不明点や疑問点があったときや、後発医薬品への変更の提案などがあったとき、薬局から医療機関への照会・伝達がスムーズになり、その情報を共有することができます。
さらに医薬品の相互作用やアレルギー情報などを医療機関と薬局で共有できれば、安全な医薬品使用にもつながると期待できます。また従来の紙の処方箋が無くなれば、印刷コストが削減できる上、偽造や再利用などの防止につながります。

患者や家族における主なメリット

近年、オンラインで診療を行う「オンライン診療」を始める医療機関が増えてきています。このようなオンライン診療では、外出が困難な高齢者の方や遠隔地に住む方への診療が可能になるなど、注目を集めています。そして電子処方箋が導入されれば、患者は自宅でオンラインで診察を受けて、自宅近くの薬局で薬を受け取れるようになり、患者の負担を大きく軽減することができるようになります。
これ以外の患者にとってのメリットは、処方歴の管理がしやすいことです。これまでは、複数の医療機関を受診し薬を処方されたとき、患者が自分でその情報を「お薬手帳」などに管理しなければなりませんでした。しかし電子処方箋は、「電子版お薬手帳」との連携が検討されており、これまでの服薬歴をより簡単に確実に管理できるようになると期待できます。

電子処方箋の本格運用への課題とは?

厚生労働省が「電子処方箋の運用ガイドライン」を最初に発表したのは2016年3月。のちに、2020年4月に一部を改正した「電子処方箋の運用ガイドライン第2版」が発表されましたが、まだ運用に至っていないのは、煩雑なプロセスと膨大なコストに問題があると言われています。また、「電子処方箋管理サービス」とのやりとりなど、煩雑なフローが予想されるため、診療時間や患者の待ち時間が増えることも懸念されています。
さらに、電子処方箋の導入には大規模なシステムの入れ替えが必要になるケースが多く、これらの経費負担が課題となっています。さらに電子処方箋導入時には、スタッフへの研修が必要になり、そのための費用も発生します。
厚生労働省では、電子処方箋システムの運用・保守費が年間9.8億円になるとの試算を、2021年1月に発表。これらの費用を被保険者や医療機関が負担するのか、公費での負担が必要なのか、検討されています。

出典:厚生労働省より「電子処方箋の仕組みの構築について」

電子処方箋の今後の動向

電子処方箋システムは2023年度に開始する予定でしたが、厚生労働省では2022年夏をメドにすると、前倒しを発表しています。まだ課題は多く残る電子処方箋システムですが、近い将来電子処方箋が当たり前に利用されるようになっていくものと期待されます。

出典:厚生労働省より「データヘルス改革に関する閣議決定」

マイナンバーカードの保険証利用など、新しい医療システムへ

電子処方箋の本格運用とは別に、2021年3月からマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになります。まだこの本格運用に対応している医療機関は一部にとどまっていますが、今後はこのシステムが普及していくものと考えられます。
これと併せて、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、さまざまなサービスがオンライン化される中、処方箋が電子化されることは当然の流れかもしれません。未来の医療システムは今後大きく変化していくのではないでしょうか。

出典:厚生労働省より「マイナンバーカードの保険証利用について」

今後の展望

記事監修

ウエストフィールド・コンサルティング 野尻 紀代美

ウエストフィールド・コンサルティング
野尻 紀代美

産業医として労働衛生コンサルタントとして10社のクライアントを定期訪問。労働安全衛生上のリスクマネジメントや講演、ストレス・マネジメント講座などを行う。京都大学と共同でのベンチャー起業者に対するメンタルヘルスチェックや講義も、年に4回行っている。

〈資格〉
日本内科学会所属、内科認定医、日本呼吸器内科学会所属、日本産業衛生学会所蔵、労働衛生コンサルタント(産業医)

ウエストフィールド・コンサルティング