3. クリニック(医院)承継の流れ
次に、具体的なクリニック承継の流れを各項目別に解説していきます。
(1) 開業希望地・時期や診療コンセプト等を考えておく
スムーズなクリニック承継のためにもまず、いつ・どこで開業するかなど考えておく必要があります。実際に承継するクリニックが希望地にあるかも分からないですし、開業することを決めたからといって直ぐに承継できるわけでもありません。ご自身が実現したい診療のコンセプトを持っておけば、承継クリニックの選定も円滑になりますし、承継後のイメージも湧きやすくなります。
(2)クリニック承継について専門家へ相談等をする
次に、クリニック承継の専門家に相談しましょう。承継先のクリニックを自分で見つけるのは困難ですし、承継クリニックの情報を複数有していることが多いので、承継したいクリニックの選択肢の幅も広がります。特にヘルスケア専門の仲介業者であれば多くのクリニックに巡り合えますし、条件に合ったクリニックを紹介してくれます。
(3)秘密保持契約書及び仲介契約書(業務委託契約書)を締結する
信頼できる専門家を見つけたら、秘密保持契約書・仲介契約書を結びます。秘密保持契約は、承継者から預かる個人情報や承継クリニックとの交渉過程で知り得た機密情報を第三者に開示しないことを定めた契約です。仲介契約書は、依頼する専門家の業務内容、業務手数料や報酬体系等について定めた契約になります。
(4)承継クリニック候補先を選定する
承継クリニックの候補先を選定するステップです。承継希望地等の条件があれば専門家から条件に合った承継先を紹介してもらえます。クリニックの情報はノンネームといって、クリニック名・所在地・詳細な財務情報等が分からない匿名での紹介になります。詳しい情報の開示を希望する場合は、承継者の氏名や勤務先の情報を承継元に伝えた上で詳細情報開示の承諾を取ります。この行為をネームクリアと呼びます。ネームクリアは複数のクリニックに同時期に行うことができます。
(5)承継クリニックの内見・院長先生との面談
選定した候補先の中から、特に興味があるクリニックの内見と院長先生との面談を実施します。詳細情報を知っているとはいえ、クリニックの内装・雰囲気・医療機器を見ておかないと決めることはできません。また、院長先生がどのような診療を行っているかなどを面談で確認することで承継後にうまく運営できるかの判断材料になります。内見・面談のステップを踏むことで承継先を絞り込んでいきます。
(6)承継クリニックを決定する
実際に承継するクリニックを決定します。承継過程で得た情報を基に承継先を決めていきます。
(7)承継元と条件調整し、基本合意書を締結する
承継先が決まったら、承継元と承継条件の調整を行います。内装や医療機器の老朽化が想定していたよりも進んでいて買い替えが必要になることもあります。こういった場合は譲渡対価を減額するなど承継元と交渉します。それ以外にも承継時期やスタッフ・契約関係の引き継ぎなどを調整していきます。承継条件の調整が終わり、双方が合意した内容を盛り込み基本合意書を締結します。基本合意書は、合意した事項の内容を証する書面になりますが、一般的には法的拘束力を有しません。
(8)買収監査を実施する
基本合意書締結後に買収監査を実施します。買収監査は、承継するクリニックにリスクがないか、財務情報の数字が適正であるかなどを調査することです。個人運営のクリニックやクリニックの規模が小さい場合は買収監査を省略することがあります。
(9)最終条件を調整し、最終譲渡契約書を締結する
買収監査の結果、クリニックの承継にあたりリスクが存在していたり財務情報が不正確であったりした場合は承継条件の最終調整を行います。最終条件調整後、双方が合意した内容を最終譲渡契約書に盛り込み締結します。
(10)承継を実行し対価を支払う
最終譲渡契約書の内容に沿い承継を実行していきます。契約書には、承継実行日に承継の対象となるクリニックの資産を承継し、承継人は承継の対価を承継元に支払うことにより承継を完了させます。
(11)行政手続きを進める
承継元との間で承継が無事完了しただけで開業できるわけではありません。開業するために、承継人は承継クリニックの所在地を管轄する保健所に診療所開設届を提出した上で保健所の検査を通過する必要があります。また、保険診療を行う場合は厚生労働省所管の地方厚生局に保険診療医療機関の指定申請を行う必要があります。