PHCグループは糖尿病マネジメント、診断・ライフサイエンス、ヘルスケアソリューションの3つの事業を通じて、医療や研究分野のさまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。
糖尿病マネジメント
糖尿病の正確な診断と新たな治療アプローチの提供
世界規模での人口の高齢化により、生活習慣病やがんが増加するなど、疾病構造は変化しています。なかでも、世界的に患者さんが増加し続けている糖尿病の適切な治療のためには、その前提となる血糖値測定が不可欠です。特にインスリンの投与に際しては、高精度な血糖値測定システムを用いて正確な血糖値を測定し、その値に基づきインスリンの投与量を正しく計算する必要があります。当社は、血糖自己測定システムの現在の世界標準である電気化学式自動吸引型センサを1991年に世界で初めて製品化して以来、医療機関や患者さんに安心してお使いいただける、より高精度で簡便な血糖自己測定システムの改善を進め、世界の医療機関における糖尿病の診断と治療に貢献してきました。当社の血糖自己測定システムは、2017年の米国糖尿病技術協会の独自調査で高精度と評価を受けた(*1)血糖測定技術によって、糖尿病患者さんの日々の治療をサポートしています。最近では、インスリンポンプとの無線通信機能によって、当社の血糖自己測定システムで測定した正確な患者さんの血糖値データをインスリンポンプに直接送信し、インスリンポンプと連携しているCGM(持続血糖測定システム)の数値を補正することで適切な量のインスリン投与を実現したり、海外向けに開発した血糖自己管理アプリを通じて、糖尿病患者さんの日々の血糖値を解析することでそれぞれの患者さんに応じた自己管理方法を提案するなど、低血糖や高血糖の発生頻度を低減するためのより効果的な製品とサービスの導入を進めています。
(*1)糖尿病治療のための機器の開発と普及に取り組む非営利組織。
2017年に本協会が実施した独自調査で、子会社のアセンシア ダイアベティスケアホールディングス株式会社が海外市場で販売する当社の血糖自己測定システム「CONTOUR® NEXT BGMS」が、定められた血糖測定精度の適合基準に100%準拠した製品であることが認められました。
患者さんの服薬アドヒアランスとQOL向上に貢献
その他医療機器の分野においても、画期的な製品の提供を通じて、医療機関と患者さんに貢献しています。例えば、成長ホルモン製剤の自己注射を行う治療現場では、患者である年少児の注射に対する恐怖心は依然として強く、注射を行う保護者の負担もまた大きいため、服薬アドヒアランスの低下による治療効果およびQOL低下が懸念されています。当社は、患者さんへの注射薬投与をより簡便にする電動式医薬品注入器を業界でいち早く開発し、成長ホルモン製剤の年少児への投与に関わる保護者の負担軽減と、患者さん自身の精神的苦痛を緩和することで、服薬アドヒアランスの向上に貢献しています。さらには、医薬品の投与履歴データを、無線通信機能を介して情報集約し、スマートフォンでも投与履歴が確認できるデータ連携機能専用アプリを開発し、現在、実用化に向けた実証実験を行っています。
当社は、高精度な測定技術やIoT技術を駆使したデータ連携ソリューションを通じて、疾病の治療と患者さんのQOL向上に向けた取組みをさらに推進していきます。
スマートフォンの画面イメージ(実物は異なる場合があります。)
診断・ライフサイエンス
医療の発展と地球環境保全の両立を目指して
1966年の薬用保冷庫の発売に始まった当社のライフサイエンス事業では、細胞や試料などの長期凍結保存に使用される超低温フリーザーや、細胞や組織などの培養を行うCO2インキュベーターを含めた保存、培養、実験環境、および滅菌機器を世界110カ国以上の国と地域のお客様に提供してきました。これらの機器は、創薬や再生医療、遺伝子治療、細胞治療といった様々な生命科学研究に使用され、健康長寿社会を実現する医療の発展を支えています。
一方、医療や科学技術の進歩の陰で、地球温暖化の進行による気候変動や生態系への悪影響が懸念される今、温室効果ガスの排出を抑制し、持続可能な地球環境の創生を目指した事業活動の遂行が企業にとっての命題の1つとなっています。当社は、超低温フリーザーや薬用保冷庫に、エネルギー効率が高く、環境への負荷が少ないノンフロン自然冷媒を採用し、インバーター制御コンプレッサーの活用とあわせて大幅な省エネルギー化を実現するなど、医療の発展への貢献と地球環境保全の両立を目標に掲げ、環境への負荷を極力抑えた環境配慮型のライフサイエンス製品の開発に注力しています。これらは、いち早く「国際エネルギースタープログラム(*4)」の認証を取得するなど、当社の保存機器の省エネ性能は第三者機関に高く評価されています。
●ノンフロン自然冷媒を採用した製品例
-30℃フリーザー付き薬用保冷庫
MPR-N450FH-PJ
-85℃超低温フリーザー「VIP ECO」シリーズ
MDF-DU502VHS1-PJ
(*4)オフィス機器の国際的省エネルギー制度。製品の稼働、スリープ、オフ時の消費電力などについて、省エネ性能の優れた上位25%の製品が適合となるように基準が設定され、この基準を満たす製品に対して「国際エネルギースターロゴ」の使用が認められている。
再生医療や細胞治療研究を支える新しいソリューションへの挑戦
また、医薬品の開発において新しい分野のライフサイエンス研究が進み、これまで治療が難しいとされていた疾病の解決策として細胞治療に大きな期待が集まるなか、高品質な細胞をより安全に、より効率的に培養するためのソリューションが必要不可欠になっています。当社はこれに対応するため、2000年以降他社に先駆けてセルプロセッシングセンター(*5)を開発し、セルプロセッシングワークステーション(*6)など、画期的な機器の導入によって、再生医療や細胞治療に携わる研究者の活動をサポートしてきました。2018年には、湘南アイパークに研究開発施設を構え、高度先端医療を支えるまったく新しい細胞培養ソリューションのアプローチの開発に取り組んでいます。
(*5)セルプロセッシングセンター(CPC):細胞を扱うための専用クリーンルーム
(*6)セルプロセッシングワークステーション(CPWSシステム):細胞操作のための無菌環境を実現する小型の装置
セルプロセッシングワークステーション
医薬品の品質管理のための新たなソリューションサービスを開発
さらに、2018年12月に厚生労働省より発効された医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインやスペシャリティ医薬品や再生医療などの高度な治療法の登場によって、医薬品の流通過程における、より厳格な品質管理や情報管理を含めて標準化された流通業務の推進が求められています。当社は、このような社会の要請に応えるために、製薬企業や医薬品卸から患者さんへの投薬に至るまでの流通経路をシームレスに管理するための、IoT技術を活用した新たな流通管理ソリューションサービスの提供を目指して、国内における大手薬剤卸企業と提携し、患者さんに安心かつ安全な医薬品を提供できるプラットフォームの開発に取り組んでいます。
持続可能な地球環境の創生を目指すと同時に、次世代医療の実現に向けた最先端の研究に貢献するために、当社はこれからもお客様の要望に応える新しいソリューションの開発に努めていきます。
ヘルスケアソリューション
医療の業務効率改善と医療サービス向上をサポート
当社は、医療機関における煩雑な医療事務処理の合理化と効率化に対応するために、1972年に日本で初めて医事コンピューターを開発、発売しました。以来、その蓄積された経験や知識を活かして、診療所、中小病院、および保険薬局向けに電子カルテシステムや電子薬歴システムなどの医療IT製品を提供することで、医療従事者の業務効率改善と患者さんへの医療サービス向上に取り組んできました。
最近では、日本の高齢化がさらに進行するとともに医療サービスの形態が多様化しています。これらより、厳しい勤務環境に置かれた医療従事者の負担軽減と業務効率の向上を図ること、および患者さんにより質の高い医療サービスを提供することが、一層求められています。当社では、年々増加する在宅医療に適切に対応するために、医師および看護師の業務プロセス改善と在宅患者さんへのより充実した医療サービスの提供を目的とした電子カルテシステムや、保険薬局における薬剤師の業務効率化と患者さんとの対面コミュニケーション強化を目指した服薬指導用ソフトなどのソリューションサービスを提供しています。また、情報通信技術を駆使した遠隔診療技術を当社電子カルテに連携させることによって、継続通院が困難な患者さんにおいても、治療の離脱防止と医療データの継続的な管理を図るべく、努めています。
薬剤師向け服薬指導用ソフトウェア「薬歴アシスト」
医療データ活用を通じた質の高い医療の実現に向けて
中長期の視点では、AIやビッグデータなどの先端技術を健康寿命の延伸に活かすための国をあげた取り組みが始まっています。2018年より日本医療ネットワーク協会(*2)が開発した医療データベース「千年カルテ」(*3)に当社の診療所向け電子カルテを接続し、次世代医療基盤法に則った医療データの収集と二次利用に向けた基盤構築を開始しました。より効果的な医薬品投与や新薬の研究開発の促進を目的とした医療データの二次利用に向けて、当社の電子カルテの活用が期待されています。
医療をめぐる国策と医療従事者や患者さんのニーズの変化をすばやく捉え、患者さんの誰もがどこでも適切な医療や介護サービスを受けることができる環境や、国民の健康寿命の延伸がより効果的に実現される社会づくりに貢献するために、今後も画期的な製品・サービスの開発に取り組んでいきます。
データ連携のイメージ
(*2)京都大学と宮崎大学の吉原博幸名誉教授や宮崎大学の荒木賢二教授をはじめとして、複数の大学や医療機関の関係者が役員として活動するNPO法人。
(*3)日本医療ネットワーク協会が開発および運営する医療データベースで、個人の医療や健康などにかかわるさまざまな情報を蓄積し、参照・活用・共有などを行う医療情報連携基盤のこと。