目 次
1. 開業医と勤務医の年収の違い
そもそもの開業医と勤務医の違いについてです。当然、自身が事業主であるのが開業医、雇用されているのが勤務医ということになりますが、その違いを簡単にまとめたものが以下の表です。
開業医(個人) | 勤務医(法人勤務の場合) | |
---|---|---|
所得の得る方法 | 事業所得 | 給与所得 |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金 |
労働保険 | 非加入 | 雇用保険・労災保険 |
労働時間 | 自身の裁量 | 労働基準法の範囲内(原則160時間/月) |
経費 | 事業に関わるものは損金算入 | 法人の規定による |
責任 | 事業全体において責任を負う | 診療においてのみに責任を負う |
まず、所得ですが、開業医は事業の収益(保険診療+自費診療)から、費用(原価・人件費・経費など)を引いた事業所得に対して所得税が課税されます。勤務医の場合は、法人からの給与が所得になります。この際に給与の場合は、2020年から給与所得控除として最大で195万円 が控除された金額に所得税が課税されます。また社会保険・労働保険に関しては個人事業主である開業医は原則加入することができませんが、勤務医は当然加入となります。(医療法人、または5名以上職員がいる医療機関の場合)こういった面を見ると勤務医のほうが良いように見えます。しかし、開業医は自身で組織を自分の思うように運営することができ、収入面でも頑張った分がそのまま反映します。また事業にかかる支出を経費にしたり、その費用の使い方も自身の裁量で決めたりすることができます。こういう面を考えると一概にどちらが良いというよりは、ご自身がどちらに向いているかという点が重要となります。
開業のメリット・デメリットに関して、詳しく知りたい方はこちらもご参照ください。
クリニック開業コラム「開業のメリット・デメリット」
2. 開業医の平均年収
では、その開業医の平均年収について解説をします。
(1)統計データ
まずは、統計データです。以下は、令和元年に実施をされた医療経済実態調査の各診療科目別の損益差額(個人診療所入院診療収益なし)です。
個人診療所 各診療科目別(入院収益なし)損益差額 単位:(千円)
個 人 | |
内 科 | 24,240 |
小児科 | 30,681 |
精神科 | 25,879 |
外 科 | 19,774 |
整形外科 | 29,888 |
産婦人科 | 18,343 |
眼 科 | 15,119 |
耳鼻咽喉科 | 18,905 |
皮膚科 | 27,099 |
その他 | 23,550 |
全 体 | 23,742 |
・内科の平均年収
内科を主とするクリニックの開業医の年収は、2,424万円となっていますので平均より高い傾向にあります。
・小児科の平均年収
小児科を主とするクリニックの開業医の年収は、3,068万円となっていますので他の診療科よりも1番高い傾向にあります。
・精神科の平均年収
精神科を主とするクリニックの開業医の年収は、2,587万円となっていますので内科や平均よりも高い傾向にあります。
・外科の平均年収
外科を主とするクリニックの開業医の年収は、1,977万円となっていますので平均よりも低い傾向にあります。
・整形外科の平均年収
整形外科を主とするクリニックの開業医の年収は、2,988万円となっていますので小児科に次いで2番目に高い傾向にあります。
・産婦人科の平均年収
産婦人科を主とするクリニックの開業医の年収は、1,834万円となっていますので平均よりも低い傾向にあります。
・眼科の平均年収
眼科を主とするクリニックの開業医の年収は、1,511万円となっていますので他の診療科よりも1番低い傾向にあります。
・耳鼻咽喉科の平均年収
耳鼻咽喉科を主とするクリニックの開業医の年収は、1,890万円となっていますので平均よりも低い傾向にあります。
・皮膚科の平均年収
皮膚科を主とするクリニックの開業医の年収は、2,709万円となっていますので内科や平均よりも高い傾向にあります。
・その他診療科の平均年収
その他診療科のクリニックの開業医の年収は、2,355万円となっていますので平均よりも若干低い傾向にあります。
全体平均で約2,374万円の報酬を得ていることとなり、これは勤務医の平均年収1,491万円(第22回医療経済実態調査結果報告に関する分析)と比較して多いです。
診療科別のクリニック開業について、失敗しない開業ポイントや開業資金を解説しています。
こちらもご参照ください。診療科別のクリニック開業ポイント
(2)統計データに拘り過ぎてはいけない
もちろん、上記の数字をあまり参考にしすぎる必要はありません。あくまでも平均であり、実際には勤務医の報酬以上に、クリニックによるばらつきが見られます。また経営が軌道に乗っているクリニックは医療法人成りをしている可能性が高いです。医療法人の場合は、経営者の報酬も経費になり、その他の節税を行っているため、こういった統計では正確な利益(代表の方の所得)を計るのは難しいです。
3. 実際に稼げている開業医の年収
それでは、実際の現場においてしっかりと稼げているのはどんなクリニックかについて記載をします。「稼げている」と一口に言ってもその数字から得られるイメージは人によって異なります。そこで実際に数字をご覧ください。こちらはとあるクリニックの月の実績を参照して仮に作成した実績です。想定としては「都内」「テナント(35坪 賃料50万円)」「内科」「週休2日制」のクリニックとしています。
例)内科(テナント開業)クリニックの損益計算書
パターン① | パターン① | |||
---|---|---|---|---|
売 上 | 保険診療 | 単価 | 5,200 | 5,200 |
人数 | 41 | 35 | ||
日数 | 22 | 22 | ||
計 | 4,690,400 | 4,004,000 | ||
原 価 | 医薬品・医療材料 | 計(売上の5%) | 328,328 | 280,280 |
人件費 | 看護師 | 月給 | 310,000 | 310,000 |
人数 | 1 | 1 | ||
計 | 310,000 | 310,000 | ||
医療事務 | 月給 | 220,000 | 220,000 | |
人数 | 2 | 2 | ||
計 | 440,000 | 440,000 | ||
賞与引当金 | 計 | 125,000 | 125,000 | |
社会保険 | 計(人件費の16%) | 140,000 | 140,000 | |
人件費計 | 1,015,000 | 1,015,000 | ||
経 費 | 地代家賃 | 計 | 500,000 | 500,000 |
支払手数料 | 計 | 100,000 | 100,000 | |
福利厚生費 | 計 | 50,000 | 50,000 | |
旅費交通費 | 計 | 50,000 | 50,000 | |
広告宣伝費 | 計 | 200,000 | 200,000 | |
交際費 | 計 | 50,000 | 50,000 | |
書籍費 | 計 | 30,000 | 30,000 | |
減価償却費 | 計 | 250,000 | 250,000 | |
通信費 | 計 | 30,000 | 30,000 | |
備品・消耗品費 | 計 | 30,000 | 30,000 | |
会議費 | 計 | 20,000 | 20,000 | |
経費合計 | 1,310,000 | 1,310,000 | ||
営業利益 | 2,037,072 | 1398720 | ||
金利 | 50,000 | 50,000 | ||
経営利益 | 1,987,072 | 1,348,720 |
ご覧の通り、個人診療所の平均の約2,300万円~約2,400万円の報酬を得るためにはこちらのクリニックの前提だと1日40名(パターン①)ほど、勤務医の平均の約1,600万円~約1,700万円を得るためには1日35名(パターン②)ほどの診療が必要です。ただ、この数字を得るためのアプローチは患者数を満たすことだけではありません。こういった数字をベンチマークとして、以下のような検討をしていきます。
- 患者数は届かないので、単価の高い疾患や自由診療に力を入れて単価を例えば7,000円にする
- 単価を上げるのもなかなか厳しいので、まずは休日を少なくしたり診療時間を長くしたりして売上を増やす
- 賃料が高くても視認性が高い物件にして、賃料の増加を1日の患者数増加で補う
- 広告宣伝費を上げて、増える費用の分を1日の患者数で補う
- なるべく自動化の仕組みを整えて、スタッフを減らして経費を浮かす
上記のように、「利益=売上-費用」「売上=単価×患者数×診療日数」「費用=原価+販売管理費」といったように分解をして考え、一つ一つ利益を増やすための仮説検証を開業前はもちろん、開業後も行います。これがしっかりできている(何かしら利益が上がる裏付けがある)先生が結果的に平均よりも高い利益を得ています。
4.まとめ
いかがでしょうか。入職時に概ね報酬が決まる勤務医と異なり、なかなかご自身の報酬が見えてこないのが開業医です。一方で努力と工夫で勤務医の数倍の報酬を得られる可能性ももっています。
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