5. 病院におけるコスト削減の具体的な手順
(1)経営課題を抽出する
コスト削減に取り組む前に、プロジェクトチームで全院の経営課題の抽出を行います。診療報酬改定への対応の遅れ、人員過不足や非効率な配置、施設の老朽化、地域の医療需要の変化に対応していないなど、経営悪化の原因は様々です。経営状態の現状把握と改善に向けての検討をした上でコスト削減を行います。
(2)現状のコスト分析から始める
最初にすべきことは、収支の現状を把握しコスト分析を行います。病院でかかるコストの種類で記述した①から⑤の費用と⑤の中でも、賃貸料と広告費などの主な費用に分類した上で、診療科別に各費用の売上対比出します。数字だけを見ていても実態は把握しにくいのですが、過去3年の売上対比、診療科ごとの比較、同じ規模の診療科との比較など、比べることで違いが見えてきます。数字だけでなくグラフにして見える化することも効果的です。
現状を把握しないまま、やみくもにコスト削減に取り組んでも効果はでません。
(3)リストアップ
コスト分析の後は、取り組み候補項目をリストアップします。全院で取り組むこと、各部署で取り組むことに分け、医療材料や委託の見直しなどのコスト削減策を具体的にリストアップします。細かいことでも探せば改善項目はたくさんあるでしょう。
(4)優先順位をつける
コスト削減と言っても、医療収益を上げるための経費とそうでない経費は性格が違います。コストを下げようと、広告費や研修費まで一律に下げてしまうと、新患者数が減ったり医療サービスの質が下がったりします。結果として経費削減できても、医療収入も減ってしまっては元も子もありません。
リストアップされた取組を「時間軸(すぐできる・時間がかかる)」「コスト軸(コストがかからない・かかる)」「医療の質(上がる・下がる)」「インパクト(効果が大きい・低い)」などの軸で分け、優先順位を検討します。
(5)行動計画と目標設定
コスト削減の目的を達するため、全院と各部署の取り組み内容を決め、行動計画と数値目標を立てます。確実に目標達成するためには、目標設定時に「5つの要素」を決めて各部署で共有して実行すると効果的です。5つの要素は、その頭文字から「SMART」の原則と呼ばれます。
1:Specific(具体的に)
誰でもわかる具体的な言葉で書き出します
例)看護師でなければできない仕事以外は看護補助者に任せる
2:Measurable(測定できる)
達成度合いが測定できる目標を決めます
例)看護補助者が一人でできる業務を4段階で測定する
3:Achievable(達成可能な)
頑張れば達成可能な現実的な目標数値を立てます
例)看護師から看護補助者に移行する業務数を30とする
4:Related(関連した)
全院で決めた目的に関連した目標を立てます
例)看護補助者を導入し、看護師の時間外労働を削減する
5:Time-bound(期限を設定する)
いつまでに目標達成するか、期限を設定します
例)今年度内に達成する
目標は自分たちでコントロールできる項目を決めます。例えば、看護師の時間外労働を10時間削減すると言っても具体的に何をすればいいかわかりません。結果指標でなく、行動指標を決めて実行することが大事です。
(6)成果
行動目標を決め実行したら、その成果を検証し共有します。その上で、次に取り組む課題や取り組み方法の改善を検討します。
例えば、上の例では、「看護師の時間外労働を削減する」という目標に対して、看護補助者を育成し、看護師の業務の内、30業務を看護補助者に移行した結果、看護師の時間外労働時間がどのくらい減少したかを確認します。
コスト削減も目的を共有し、全院で何のためにやるかを納得した上で取り組み、その成果を確認し、取組方法を改善する、そのステップを繰り返します。マイナスのイメージでやらされ感で取り組むのと比べ、成果が出てスタッフの意識も変わります。