コラム:診療科別のクリニック開業ポイント
コラム クリニック開業ポイント

在宅診療(訪問診療)で失敗しない開業ポイント・年収や開業資金も解説

  • 診療科別のクリニック開業ポイント

1. 序文

最近では35歳前後の気力・体力も充実している若い医師が在宅医療のクリニックの立ち上げに関心を持っています。本稿では開業資金や資金調達、在宅診療所の施設基準、集患のポイント、成功事例などお伝えします。

2.在宅診療(訪問診療)の開業資金・平均年収に関して

・在宅診療の開業資金と資金調達は?

在宅診療の開業初期投資額は1,500万円~2,000万円で、他の診療科と比較すると開業初期投資額は低くなります。
最近の開業支援事例では在宅診療の開業初期投資額は計1,700万円でした。

イメージ
内訳は下記のとおりです。
  • 10坪のほどの賃貸物件で敷金:50万円
  • 内装工事・備品・医療機器:150万円
  • 往診車:200万円
  • 医師会入会金:300万円
  • 運転資金:1,000万円

初期投資額1,700万円は、自己資金が200万円であったので残りの1,500万円を地方銀行にて資金調達しました。融資条件は金利1%台、8年の返済期間です。
訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療養支援診療所の平均所得は2,500万円~3,000万円前後です。開業医の平均所得をやや上回っています。
取り組み次第では大きな所得を得る場合もあり体力・気力とも充実している35歳前後の若い医師が在宅診療訪問診療・往診を中心に取り組むクリニックの開業を志すケースが増えています。

3. 在宅診療(訪問診療)の開業ポイント

(1)在宅医療をどのように取り組むのか意思決定する

在宅診療の開業については「在宅医療を専門に行う在宅療養支援診療所とするのか」「訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療養支援診療所とするのか」について意思決定をしなければなりません。
在宅医療を専門に行う在宅療養支援診療所の開設要件は下記のとおり要件のハードルが高いため、総患者数の5%以上を外来患者とする訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療支援診療所をおすすめします。

<在宅医療を専門に行う診療所の開設要件>

  1. 無床診療所であること。
  2. 当該保険医療機関において、在宅医療を提供する地域をあらかじめ規定し、その範囲(対象とする行政区域、住所等)を被保険者に周知すること。
  3. 2の地域の患者から、往診又は訪問診療を求められた場合、医学的に正当な理由等なく断ることがないこと。
  4. 外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、2の地域内に協力医療機関を2か所以上確保していること(地域医師会(歯科医療機関にあっては地域歯科医師会)から協力の同意を得ている場合にはこの限りではない)。
  5. 2の地域内において在宅医療を提供し、在宅医療導入に係る相談に随時応じること及び当該医療機関の連絡先等を広く周知すること。
  6. 診療所の名称・診療科目等を公道等から容易に確認できるよう明示したうえ、通常診療に応需する時間にわたり、診療所において、患者、家族等からの相談に応じる設備、人員等の体制を備えていること。
  7. 通常診療に応需する時間以外の緊急時を含め、随時連絡に応じる体制を整えていること。
引用:厚生労働省「在宅医療のみを実施する医療機関に係る保険医療機関の指定の取扱いについて」

<在宅専門診療所向けの在宅療養支援診療所の施設基準>

現行の施設基準に加えて以下5つの実績を満たしている必要があります。

  1. 在宅患者の占める割合が95%以上である
  2. 1年に5カ所以上の医療機関から新規患者紹介がある
  3. 看取り実績が年20件以上、または15歳未満の超・準超重症児の患者が10人以上である
  4. 「在総管・施設総管の件数」に占める「施設総管」が70%以下である
  5. 「在総管・施設総管の件数」に占める「要介護3以上の患者+重症患者」の割合が50%以上である

在宅専門診療所向けの在支診の施設基準を満たさない場合は診療報酬の減算となるため、よほどの理由がない限り自由度の利く訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療支援診療所がおすすめです。

参照:厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の概要」

(2)在宅医療に取り組む理念を明確にする

数多くある在宅訪問クリニックのなかから自院を選択してもらうために、在宅医療に取り組む理念を明確にする必要があります。在宅医療は経済的な理由のみで続けられるほど生半可な医療ではありません。医師人生をかけて取り組む価値があることなのか。ご自身の理念を明確にしましょう。理念を明確にするにあたり、次の3つの質問に答えることでまとめやすくなります。

  • 質問①:在宅医療を通じて医師として患者さんとご家族にどのようなことができるのか?
  • 質問②:在宅医療を通じて医師として何を得ることができるのか?
  • 質問③:在宅医療を通じて地域医療にどのように貢献していくのか?

この3つの質問に答えることは難しいことかもしれませんが、理念を明確にすることで在宅医療を継続して取り組む動機づけとなり、情熱を燃やし続けることができるのではないでしょうか。

(3)他院との違いを生み出す特徴を伝える

理念に加えて自院の特徴を明確にして伝えることも大切です。いくら立派な理念があっても具体的にどんな特徴があるのかが明確でなければ在宅患者の紹介を得ることはできません。自院の特徴の事例として「24時間対応可能」「末期がん患者の在宅ホスピス対応可能」「人工呼吸器・気管切開・胃瘻などが必要になった重度障害の患者にも対応可能」など、他院との違いを生み出す特徴をまとめましょう。また、小児の呼吸器の在宅医療や難病患者の在宅医療対応など他院では敬遠される(診ない)患者さんを診るというニッチな分野をフォローすることでも大きな特徴となり得ます。そして、その特徴を裏付ける実績を数値で示すことが重要です。例えば、「末期がん患者を今まで何人看取ったのか」「難病患者を在宅でフォローした人数」などを数値で示し特徴を裏付ける根拠をまとめておくとわかりやすくなります。
あるクリニックの事例では、地域で在宅医療に携わる看護師やソーシャルワーカーの勉強会で自分の在宅医療についての理念と自院の特徴を伝えたところ、「この医師であれば患者さんを任せることができる」と、数人の在宅患者の紹介がありました。

4. 実際にうまくいった医師の成功事例

T院長の実践した、「在宅患者・在宅医療を希望する患者情報」を多く持っている地域の専門職にアプローチして成果を出した事例をご紹介します。
T院長は、開業当初より地域で活躍している居宅開業支援事業所のケアマネジャー、訪問看護ステーションの看護師、地域の基幹病院に勤務しているソーシャルワーカー(以下MSW)をリストアップして、1件1件ニーズを聞き取ってT院長ができることを伝えていきました。
患者紹介のあった居宅開業支援事業所・訪問看護ステーション・MSWには患者さんの状況をメールやFAXなどでタイムリーに報告することで紹介してくれた専門職との接点を持ち続けることができ、継続した患者紹介が生まれています。
特に自営で立ち上げている医療機関系列ではない居宅介護支援事業所のケアマネジャーや訪問看護ステーションの看護師は、関連病院や施設のしがらみもないのでT院長のクリニックの強力な在宅医療のパートナーとなっています。
そして、T院長が医師として在宅医療に取り組む理念や自院の特徴、症例を説明するなど専門職に自分をアピールする機会を得た結果、T院長の理念に共感したMSWなどの専門職から多くの在宅患者の紹介を得ています。
開業3年目でT院長は月120人前後の在宅患者を確保しています。損益計算書の概略は下記のとおりとなっています。

開業投資予算サンプル (C)合同会社MASパートナーズ調べ ※金額は実際の近似値です

5.まとめ

在宅医療を取り組むにあたって訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療養支援診療所にするのか在宅専門の在宅療養支援診療所にするのか検討が必要です。在宅専門診療所の施設要件のハードルは高いので必ず確認しましょう。そして、魂のこもった理念と地域ニーズにあった特徴をまず明確にして伝えることが大切です。
また、患者を紹介してくれるケアマネジャー、訪問看護ステーション、MSWなどの専門職には、必ず患者さんの状況についてタイムリーに報告相談連絡をして、パートナーとして付き合っていくことをおすすめします。専門職の信頼を獲得することで新たな紹介患者が生まれていくでしょう。

筆者プロフィール

合同会社 MASパートナーズ

http://www.maspartners.co.jp/

公益社団日本医業経営コンサルタント協会認定コンサルタント

原 聡彦

医療機関に特化したコンサルティングを行う合同会社MASパートナーズ代表。これまでクリニックの開業コンサルティング150件以上、クリニックの院外事務長などの経営サポートを250件以上など現場主義のサポートで活動するかたわら、コンサルティングの現場で経験した教訓を執筆活動、講演を通して発信している。