近畿大学初のCPCを導入、軟骨細胞の培養移植による
障害克服の道を拓く
近畿大学医学部
大阪平野南部、大阪狭山市のニュータウンの一角にそびえる近畿大学医学部は、附属病院に加え堺病院・奈良病院に合計1,936の病床を持って、研究・教育・診療に取り組んでいます。「優れた臨床医の育成」を教育目標とし、現在全国でも進んだ医学教育が行われています。各講座及び医学部共同研究施設には極めて高度の研究設備と優れた人材が配置され、国際的に評価の高い研究業績を挙げる一方、患者さんに最新医学の成果を提供できるよう努められています。中でも整形外科では近畿大学では初めてとなるCPCを導入、軟骨細胞の培養と移植治療に取り組まれています。医学部講師の朝田氏と助手の橋本氏にお話しをうかがいました。
〈アイソレータ〉の導入時期と目的を教えてください
このセルプロセッシング・アイソレータを導入するまで、近畿大学にはCPCがありませんでした。細胞培養に関する研究は眼科の角膜培養を始め他の診療科、講座でも行われていますが、細胞治療を実施するとなるとクリーンベンチで作業するというわけにはいきません。きちんとしたGMPに準拠するクリーンルームが必要になります。当初は従来タイプのクリーンルーム設置を考え情報を集めていたところ、三洋さんからセルプロセッシング・アイソレータの提案をもらったわけです。アイソレータ自体を設置するクリーンルームの清浄度の要求は厳しくなく、設置面積が非常に小さいこと、予算・維持・運営管理の面、人が直接検体に触れないのでコンタミネーションの防止に有利な点など総合的に検討して導入を決めました。
この装置は、「軟骨欠損に対する軟骨細胞の培養と移植」の目的に導入しました。近畿大学の倫理委員会をすでに通過していますが、今年の3月に導入したばかりで実際にはまだ本稼働に至ってません。現在は基礎的なテストを繰り返しているところです。実際に稼動した場合培養にかける時間は約3週間です。これは細胞の増殖レベルの問題とコンタミネーション予防の意味があります。長期に渡ると接触も増え、その分コンタミネーションの機会も増えるからです。
軟骨欠損というと高齢者に対する治療ですか
一般的には高齢者の「変形性関節障害」を連想しますが、高齢者の場合は軟骨組織の細胞自体に再生能力があまりなく、培養しても増えにくいのです。また、移植しても生着しないことが多く、事実上高齢者には向きません。スポーツ外傷や一般外傷が元で「軟骨欠損」が生じますが、このような症例が治療対象となります。「前十字靱帯損傷」「膝蓋骨脱臼」などの場合、軟骨も同時に損傷を受ける場合が多いのです。軟骨はいくら待っても再生しにくい臓器なので、そのような患者さんに対して再生・移植の治療をしていこうと考えています。
アイソレータ使用上での問題は
使い始めて感じたのですがワーキングエリアが思っていたより狭いです。限られた空間の中にいろんな装置がセットされているので仕方ない部分もありますが、もう少し広いと楽だったのですが。内部にラックなどを増設して器具を整理するなど工夫して使っています。アイソレータの端から端へものを移動させようとすると2人で手渡ししないとできませんが、これがなかなか面倒に感じます。
将来への展望と問題点
移植の対象になる「軟骨欠損」という症例は、実はそれほど多くありません。日本では「前十字靱帯損傷」「膝蓋骨脱臼」という外傷は1,000人に対して一人の割合といわれています。さらにその中で「軟骨欠損」を伴う症例数となるとさらに少ないわけです。広島大学では5年間で100例くらいの移植実績がありますがこれは飛び抜けた数字といわれています。千葉大学はアメリカに依頼し培養したものを送り返してもらって移植していますが10例未満と記憶してます。東京医科歯科大の場合は1年間で2例ほどと聞いています。
これからの日本は、確実に高齢者社会となっていきます。そんな趨勢の中で、高齢者の「変形性関節障害」は当然関心の高い問題です。他の肉体が健康であっても膝関節に痛みがあると日常の活動が非常に制限されます。このような患者の治療に再生医療が応用できるような技術的・理論的な発展があればたくさんの人が救われるのですが、現状ではやはり人工関節に頼る治療しかできません。新たな将来技術を研究するには大きな予算が必要ですが、公的な研究費の支援は限られていて、潤沢ではありません。
また、日常の運用に関しても、患者さんへの治療の説明、事務的な処理、研究・培養作業などに多くの時間がとられます。これはスタッフの数がまだまだ少ないということが原因です。
このように楽観的な材料は少ないのですが、問題は一挙に解決するものではなく、一つひとつ解決策を探っていくしか方法がないと思います。
近畿大学セルプロセッシングアイソレータ再生医療細胞分離室