「日常生活における食品の安全性」に研究の視点
活水女子大学健康生活学部 食生活健康学科 食品衛生学研究室
農学博士 松岡 麻男 教授
調理による有害物質の生成抑制
活水女子大学健康生活学部食生活健康学科は、管理栄養士に関する厚生労働省の新しい指針にともない、同短期大学の食物栄養専攻部門を母胎として、2年前に新たなカリキュラムでスタートしました。
食品衛生学研究室を率いる松岡麻男教授は、カリキュラムの中の「食物と健康」に属するフィールドで、食品の安全性確保の追究をテーマとされています。
具体的には、松岡教授の元来の専門分野である①〔微生物(食中毒細菌)の制御〕に加え、②〔調理加工による有害物質の生成抑制〕③〔大豆発酵食品の機能性〕などの研究に取り組まれています。
調理加工による有害物質の生成抑制の研究では、調理に要する温度と時間が重要な意味を持ちます。一般家庭で食品を調理するとき、食品によっては高温加熱でアスパラギンとグルコースが反応し、有害物質が生成されることがしばしばあります。
「おおむね温度を下げて時間をかけた方が有害物質の発生は少ない(松岡教授)」という見地から、同研究室では、いろいろな食品で調理加熱温度と時間を変えて、有害物質の生成を調べ、その抑制を探る実験が進められています。
また、魚のコゲなど、蛋白質が高温加熱で反応して生成する発ガン性物質をどのように抑制するかも研究テーマのひとつ。
この研究では、加熱前に野菜のジュースにつけて有害物質の生成自体を抑制することを明らかにしています。
大豆発酵食品の機能性の研究
大豆発酵食品の生理的機能研究の分野では“テンペ”の研究が進められています。
“テンペ”はインドネシアの伝統的な発酵食品で、大豆をテンペ菌(リゾップスに属するクモノスカビ)で発酵させたもの。製法がわが国の納豆に似ていることから“インドネシア納豆”とも呼ばれています。
血栓溶解性、消化吸収性、アレルゲン分解性など、納豆の持つ機能に加え、抗酸化性が強いという、納豆にはないすぐれた生理的機能を有しています。
しかも、味は淡泊で、匂いもそれほど強くなく、発酵食品の苦手なアメリカでもかなり普及しています。わが国でも健康食品として注目されつつあり、生産する企業も出てきています。
松岡教授はこの“テンペ”に着目、さまざまな角度から研究を進められていますが、さらに、大豆の発芽初期の段階で発酵させることにより、GABA(ガンマ-アミノブティリック・アシド)をより効率的に生成できないかというテーマに取り組まれています。
抑制性神経伝達物質であるGABAは、精神を安定させることで知られていますが、血圧を下げるなど、脳の働きに重要な役割を担う物質の一つです。
このGABAをより多く生成することによって、大豆発酵食品の生理的機能がさらに高まることが見込まれるわけです。
松岡教授は、「将来の地球全体の食糧事情を考えるなら、大豆を飼料にして動物性蛋白質に変えるよりも、そのまま植物性蛋白質として摂取するほうが誰が見ても有利です。研究の大目的は蛋白質の確保にあり、要は大豆そのものをもっと食べましょうということです」と語っておられます。
暮らしに直結した食物と健康学
こうした数々の研究を推し進めていくうえで、食品衛生学研究室では、保存機器のプレハブ式低温室、超低温フリーザ、薬用保冷庫などをはじめ、培養機器のインキュベータ、実験環境機器のクリーンベンチなど、三洋のバイオ関連機器群が欠くことのできない役割を果たしています。
松岡教授は「2年前に健康生活学部が新設されたときに導入したものがほとんどですが、いずれの機器も、今のところ安定性に申し分ありません。とくに保存機器関係では、20年近く昔から使っているフリーザを持ち込んできたほどで、もちろん今でも現役。確かな信頼性に強い愛着を覚えています。バリデーションを含め、サービス体制も三洋の定評を裏切らないものがあると感じています」と話されます。
いずれにせよ、松岡教授の食品衛生学研究室が取り組む研究活動から強く感じられることは、いずれの研究分野も「日常生活における食品の安全性を追究する」という姿勢で貫かれていることです。
食生活健康学科が育成をめざす管理栄養士は、病院や介護福祉施設をはじめ、国内のあらゆる場所で、人々の健康的な暮らしを食生活の面から支える役目を担っていますが、松岡教授は「学生たちがやがて社会に巣立っていったときに、大切なことは日々の暮らしの中で“食物と健康”のあり方を真摯に見つめることだいう視点を持ち続けてくれれば何よりです」と結ばれました。