LED光源システムで、光輝く農業の未来を探る
大阪府立 食とみどりの総合技術センター みどり環境部 都市緑化グループ
主任研究員 内山 知二 氏
都市型緑化技術
大阪府立食とみどりの総合技術センターは、園芸、畜産、林業などの基礎研究をはじめ、農業技術者の育成や新しい農業技術開発など行うよう設立された。府民ニーズに応えるべく消費者に近い視点を取り入れた「食とみどり」の総合研究機関だ。その中で組織されるみどり環境部では、都市型の緑化技術と花の栽培を中心とした農業生産という、大きく二つの分野で研究が進められている。「緑化とは、主として環境面から見たときの植物ですし、農業生産というのは、それを直に収穫するとか観賞するといった、積極的に使う生産技術としての捉え方です」と同部で主任研究員をする内山氏は語る。
屋上緑化で特に研究を進めているのは、いかに軽い土に植物をうまく植えてやるかという技術開発。一口に屋上緑化と言ってもクリアしなければならないハードルがたくさんある。例えば、「ビルを新築する場合、屋上緑化を前提にして建てれば、強度の問題や屋上の水漏れ対策などを最初から設計しますので、問題は起きにくい。ところが既存の建物を緑化するとなると、重量的な制約がかかる、水もそんなにふんだんに使えるわけではない」内山氏はこの問題解決に向けて研究を続ける。「極力土の量を減らそうということで、薄層培地という2~3cmの厚みの土に植物を植える技術を開発して、一定の成果をあげてきました。例えば、それは大阪府庁の屋上でも試験サイトを設けて継続して研究をしています。」
農業生産技術
一方、農業生産に関する技術開発について、内山氏は、「今農業は世界的にみて2極分化が進んでいます。疎放かつ単一的な方向、つまり広い面積の農場でトウモロコシばかり作るというような農業と、狭いけれども収益性の高い手の込んだ農業とに分かれています。特に大阪では、当然単一で疎放な栽培というのは、経営的に成立しない。そうすると、いかに狭い土地を活かし、最適な環境のもとで収益をあげていくかという方向で考えていく必要がある」と示唆しながら、「一つは温度環境の制御、もう一つは光環境の制御という2点が大きなポイント」になると技術開発の方向性を語る。
そして、これはいま研究中ですがと断って、「光環境の制御に関しては、例えばLEDを光源にしていろんなものの栽培を行っています。いろんな制限を受ける狭い土地では、土地効率をあげるために人工光源をうまく利用することが必要不可欠です。実際には、植物の成育状況を観察するインキュベーター(一定の温度・湿度をコントロールする機械)の中に三洋電機製の研究用LED光源システムを設置し、植物栽培の試験をしています」と内山氏は続ける。20年くらい前から、蛍光灯光源で工場生産的なことが試みられたこともあったが、蛍光灯自体の発熱が、栽培試験の邪魔をした。そこで現れたのが、LED光源。ほとんど発熱しない光源として注目を集めているところで、「一部そうした農法が実用化されはじめている」そうだ。
研究用LED光源システムとは
LEDが面白いのは、蛍光灯と違って限定された波長の光が出せるということ。内山氏の思惑は、「植物によってどういう波長が生育に向いているかを探し出してやる」ことにある。何種類かのLEDを組み合わせて、かつそれぞれの波長の強さをコントロールすることで光の最適化を図り、植物生育に向いた光源に仕立て上げていく、いわば光のコーディネートが大きな研究の柱となる。
「いまはまだ、その基礎的な研究です。将来的にはここで得られた植物ごとの光の最適データを、現場の農家に実際の栽培方法として情報開示していくことを目指しています」と今後の展望を明かす。
そして、LED光源のもうひとつの効果として、内山氏は、「発熱がほとんどなく土地の生産性を上げられること。つまり、一定の面積で何段階にも畑や地面に相当するものを造営できることにあります。大阪のような農地が狭いところでも、ビルのように何層にも栽培が可能になっていく、そんなメリットの方が大きいと考えています」と期待を寄せる。
さらに、LED光源の可能性について、こんな言葉で締めくくった。「ある特定のLED光源で生育することによって、ある栄養成分や甘みを通常より多く含んだ野菜が生まれることが考えられます。そうなると、新しい商品価値を持った野菜や、もっと言えば新種の野菜の誕生だってあり得ます。そういう意味ではまだまだ謎が多く、発展性があり、将来的に期待される研究であると思います」。