コラム:クリニック開業基礎
コラム クリニック開業におけるポイント

開業医のやりがいとその苦労。開業医の仕事のスタイルに関して

  • クリニック開業基礎

1. 序文

同じ医師といっても開業医は経営者でもあり、勤務医とは異なるやりがいや苦労があります。しかし、この違いについて詳細なイメージまではつかない方もいるでしょう。本稿では開業医としてのやりがいや苦労、そしてその苦労の乗り越え方について解説します。

2. 開業医としてのやりがい

最初にやりがいについてです。開業医としてのやりがいは多岐に渡りますが、本稿では以下4点について記載します。

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(1) 収入面

まずは収入面です。勤務医では求人票に記載された報酬が保証されています。安定している反面、逆に言うと頑張ってもそこから大きくは変わらないことが多いのです。一方で開業医の場合は、収益と費用の差額の利益が報酬となります(個人クリニックの場合)。自身の努力と成果がそのまま報酬に直結する点はとてもやりがいがあります。

(2) 医療(診療)面

勤務医では勤め先の病院や法人の方針に従い、勤め先が用意した機器や、採用した薬を用いて診療を行います。一方で開業医の場合は自身で診療内容や方針を決定してその対象の患者さんへのマーケティングを実施し、自身で採用した機器や薬を用いて診療を行うことができます。

(3) 組織マネジメント面

医療面と同様に、勤務医は病院や法人が決めた組織図のもと採用されたスタッフと仕事をすることになります。開業医はどの職種を何名採用するかの組織図の設計や、どのように応募者を集めて採用するかも自身の責任と判断になります。また、その後の人事評価なども事業主自身で決めます。これらの流れで自身の理想の組織を作っていくことができるのです。

(4) 生活面

勤務医は求職時に条件を見て職場を選びます。有給休暇を使用するなどしてある程度柔軟な面はあるといえ、基本的には勤務先の病院の診療時間や休診日に従って生活をしていくこととなるでしょう。開業医はこの診療時間や休診日、臨時の休診日などすべてを自身の裁量で決めることができます。

3. 開業医としての苦労とは

一方で、開業医特有の苦労もあります。大きく分けて2点記載します。

(1) 勤務医時代と比較して増える業務

まずは業務として増えるものです。以下の表は、とあるクリニックの診療以外の業務例です。このクリニックは事務長が行っていますが、開業初期のクリニックや規模が小さく事務長がいないクリニックでは院長自身がこれらの業務を行うこととなります。またこの表は例示であり、クリニック個々でさらにタスクが増えることとなります。

業務例 図表:(C)株式会社G.C FACTORY作成

ご覧のとおり、経営管理・経理・労務・人事・採用・マーケティング・行政手続きなど、多岐に渡ります。これらの知識を身につけなくてはならない苦労もあり、また診療時間以外にこれらの業務を行わなくてはいけない時間的負担もあります。

(2) 精神的な負担について

次に精神的な負担が挙げられます。単純にやることが増えるという業務の負担に加えて、開業医になることは精神的にも負担がかかります。その種類は多岐に渡りますが、例えば以下のような精神的負担を感じる先生がいるようです。

  • 開業時の多額の借入金を返済していけるのかという不安
  • なかなか患者さんが増えないこと
  • 天災などの不安(最近では新型コロナウイルスの今後の流行の恐怖)
  • 休んではいけないという不安
  • 診療所に医師が自分一人しかいないこと
  • 従業員との人間関係(労使トラブル)
  • 新しいスタッフの応募が来ない不安
  • 新しい業務を覚えること(マーケティング・経理・労務・行政手続きなど)
  • 経営数字を意識して診療をしなくてはいけないこと
  • 近隣の医療機関や医師会とのお付き合い
  • 今後の診療報酬の動向

など

開業医はさまざまなストレスを抱えていることがわかります。

4. 最初のうちは慣れない人もいずれは慣れる

それではこういった業務負担や、精神的ストレスをどのように乗り越えているかについて記載します。結論から言うと、ほとんどの先生が乗り越える(慣れる)ことができています。

(1) 最初は自身でやってみる

新しい経験の業務に関して、最初は院長自身でやってみることがおすすめです。その中で、このまま自身で行ったほうが良い業務と、将来的に人に任せても問題ない業務が見えてきます。その判別がついてから人に割り振りましょう。このようにする理由は、最初から人に振るとその業務をお願いした人が将来退職をした際に困りますし、その人の業務の管理監督をするためにも一度はご自身で把握をする必要があるためです。

(2) クリニックや法人の拡大に伴って勤務医や事務長に振っていく

“自身でやる”というのは、業務内容を覚えてしまえば業務自体が問題にはなることはありませんが、院長の負担があるうえ法人やクリニックの拡大に伴い不可能になっていくでしょう。院長や法人の理事長としてより優先しなくてはならない業務のためにも、法人やクリニックの拡大に伴い、事務長や分院長といった責任ある立場の人を採用して、業務を任せていくことができます。この時のポイントは“再現性”と“展開性”を意識することです。マニュアル化したり仕組み化したりして、事務長や分院長も“いつかは辞めてしまうもの”と、「その人にしかできない」という状態にしないことが重要です。

5.まとめ

開業をすることは勤務医時代よりもやりがいとなることが多いですが、一方で苦労も多くなります。ただその苦労は乗り越えていけるものです。苦労を乗り越えていくためにも業務をリスト化して、自身でも一通り把握しつつも人に依頼できるものは振っていくことが必要です。そしてその際には再現性・展開性を意識していくことでリスクに備えることができます。

筆者プロフィール

株式会社G.C FACTORY

代表取締役 金子隆一

コンサルタントとして、医療機関のM&A、開業、運営支援において累計100件以上の実績を有する。クライアントの問題解決に励むと同時に、都内の大規模在宅支援診療所のバックオフィス業務の設計及び実行責任者を兼任している。