実際に性病科・性感染症科を標榜するクリニックの開業形態を知るため、病院検索サイト「ホスピタ」で、東京都新宿区のクリニック17院の保険対応、立地、休日・夜間診療などについて調べました。性感染症科専門のクリニック4院は全て自由診療のみで、他に自由診療が多いのは形成外科併設と泌尿器科併設のクリニックです。
性感染症専門クリニックの主な特徴は、プライバシーに配慮した自由診療を行なっていることです。薬の処方以外の検査・治療は匿名で受けられます。駅近の雑居ビルの上層階にあり、週1日以上の休日診療と夜間診療を行ない、患者の受診をしやすくしています。検査結果は当日もしくは後日ネット上で確認でき、薬は院内処方もしくはオンライン診療後に郵送されます。また、オンライン診療やWeb予約ができ支払いはカードが使えます。
泌尿器科や形成外科を併設している性感染症科は男性専門、婦人科併設は女性専門としているクリニックが多いようです。
病院検索ホスピタ 新宿区・性病科で検索した結果を元に筆者作成
新宿区内全17院 |
院数 |
自由 診療 |
保険・ 自費 |
休日 診療 |
夜間 診療 |
オンライン 診療 |
Web 予約 |
院内 処方 |
性病科・性感染症科 |
4 |
4 |
|
4 |
4 |
3 |
1 |
3 |
性感染症科・泌尿器科 |
9 |
5 |
4 |
6 |
|
2 |
2 |
1 |
性感染症科・内科 |
7 |
|
7 |
6 |
2 |
|
3 |
3 |
性感染症科・皮膚科 |
6 |
|
6 |
4 |
4 |
|
2 |
3 |
性感染症科・婦人科 |
6 |
|
6 |
4 |
4 |
1 |
1 |
3 |
性感染症科・形成外科 |
3 |
3 |
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3 |
3 |
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1 |
|
(2)開業コスト
性感染症の開業は、戸建てや医療モールではなく、目立たないテナントビルが最適です。開業費用については、開業地域のテナントビルの泌尿器科もしくは皮膚科・婦人科の事例を参考とすると良いでしょう。
プライバシーに配慮し、待合室・検査室・トイレを男女別に設けることが望ましいのですが、男女の予約曜日や時間帯を分けたり、Web予約・問診やオンライン診療で待合室の待ち時間を少なくしたりすることで限られたスペースでも効率よく使うことができます。
開業資金としては、首都圏のテナントビル賃貸の場合で、約5,000万円〜8,000万円となります。
首都圏の私鉄沿線駅徒歩2分の40坪のテナントビルのクリニック(家賃坪1.3万円)で試算しました。
内訳は、下記の通りです。
- 賃貸物件取得費:500万円
- 内装工事費用(坪60万円):2,400万円
- 医療機器(リースも利用):1,000万円
- その他設備費(看板・什器):400万円
- 開業準備費(OA機器、カルテ、採用、HP・広告など):600万円
- 運転資金:2,100万円
合計7,000万円
(3)開業資金調達法は?
クリニックの開業で資金調達する方法としては、地元の金融機関以外にも開業時に有利に借入できる金融期間や制度があります。
①日本政策金融公庫
クリニックだけでなく、創業や事業に取組む方々等を支援する政策金融機関です。クリニックは中小企業ではありませんが国民生活事業として融資を受けることができます。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)、女性・若者・シニア起業家に該当する場合は、金利優遇なども受けることができます。
②福祉医療機構
福祉と医療の向上に取り組む独立行政法人です。診療所不足地域で開業する場合、有利な固定金利で借り入れすることができます。
③医師信用組合
地域ごとに設立されている医師信用組合では、地域の医師会入会が条件ですが、有利な条件で融資が受けられ、新築費用や医療機器、医師会入会費用などに当てることができます。
(4)性感染症科の平均年収は?
性感染症科の収入については保険診療と自由診療とで異なります。
保険診療の場合は、テナントビルの泌尿器科もしくは皮膚科・婦人科の収入を参考にするとよいでしょう。前述の第22回医療経済実態調査報告によると、個人の皮膚科の年間収入が約2,700万円です。性感染症科独自の自費の検査もあるので、皮膚科より収入は多いと思われます。
自由診療の場合は、美容系・形成外科の収入が参考となります。専門性と地域、規模にもよりますが、保険診療を上回る3,000万円以上の収入が目安となるでしょう。
3. 性感染症科の開業ポイント
「性病・性感染症」というと、一昔前の風俗街の病気だと思われがちですが、性感染症の正しい知識を啓蒙するSTD研究所の調査によると一般患者が増えており、若年層や中高年患者も増加しています。
性感染症患者数の変化
厚生労働省の「性別にみた性感染症(STD) 報告数の年次推移(2004年〜2019年)」調査結果によると、主な性感染症の報告数は2002年頃をピークに全体として減少しています。しかし、最近では性器クラミジア感染症と梅毒が増加し、STD全体で年間6万人弱の患者数が報告されています。
性感染症科で開業を考えるとき、3つのポイントがあります。
(1)地域の患者数の想定
感染拡大防止を目的に各都道府県では感染症発生動向調査を実施しており、STDも報告対象なので過去の男女別・疾病別・医療圏別の患者数を調べることができます。東京都では新宿区のある区西部医療圏の患者数が一番多く報告されています。感染原因が「性行為」なので、40代未満の若年層や歓楽街の多い地域が好立地と考えられます。
(一社)日本性感染症学会では、2008年から専門医の認定制度を設けています。2021年8月現在の認定医数は全国で479人。都道府県別の認定医が公開されているので、人口あたりの認定医が少ない地域は開業候補地として有利かもしれません。
(2)立地とアクセス
性感染症科は泌尿器科や心療内科と同様に明確な受診目的を持って来院するので、賃料の高い路面1階のテナントは必要ありません。通院していることがわからないように雑居ビルの上層階や路地に入り口がある建物が適しています。ネットで探して遠くから来院することも多いので、駅近でアクセスのよい立地が最適です。
(3)IT活用の情報発信と患者利便性に配慮
性感染症について不安に感じる人は、まずネットで情報を集め、検査や治療法を調べます。開業時の集患ではHPやSNSを使い患者の不安を解決し速やかに受診を促せるように、わかりやすい医療情報の提供が大事です。院長自身がHP上で治療について説明するとさらに効果的です。
また、オンライン診療やWeb問診、予約システム、セルフレジシステムなどのIT導入は、なるべく顔を合わせず受診を終えたいという患者心理に応えるだけでなく、利便性向上にもなります。IT活用は効率的な診療体制の整備にもつながるので、開業時から準備しましょう。