在宅治療の患者さんのニーズに応えクリーンルームを設置して無菌調剤に取り組む
大阪府薬剤師会 理事
府薬会営中央薬局 薬局長 笠原 伸元 氏
大阪府薬剤師会は薬局を中心に病院・診療所、医薬品販売業に勤務する薬剤師8,200名以上の会員によって構成されています。国民の健康への啓発、薬剤師の職能向上、医薬品情報の収集や医薬品の備蓄・分譲など医薬に関する活動を広く行っている社団法人です。また、直営の薬局を持ち、調剤業務も行っています。今回は日本のTNPの先駆者であり、現在は府薬会営中央薬局の薬局長である笠原先生にクリーンルーム導入と無菌調剤についてお話しをうかがいました。
クリーンルームや無菌調剤は関西では少ないですね
そうですね、全国的に見てもまだまだ少なく、全国で約120ヶ所くらいです。しかも半数は関東に集中しているので関西では珍しいと思います。
この事業はどのようなきっかけで始められたのですか
大きな動きとしては平成17年12月に出された政府の医療制度改革です。がん予防を大きな目標にすると共に終末期医療患者の在宅医療に対しての考え方が示されました。特に末期がんの患者さんを自宅で看取るということが出てきました。いままでは病院で最期の時まで治療を受けていたのですが、最期は自宅で迎えたいという患者さんも増えてきたわけです。そうなると、自宅療養の環境整備が必要となるわけですが、末期がんの患者さんが薬を調剤してくれと言って来た時に対応できるよう、私たち薬局も準備しないといけません。
がん治療薬を調剤されるのですか
主にTPNです。これは中心静脈栄養輸液ですね。それとがん特有の疼痛に対する痛み止めなどです。また、がん患者用だけではなく他の病気でもTPNが必要な患者さんがおられますので、処方箋に応じた輸液の調剤もあります。この輸液というのは別段新しいことではなく昭和47年頃アメリカから紹介された治療法です。特に子供の先天性の病気である小児短腸症候群、クローン病と呼ばれている病気に対して処方されていました。腸から栄養がとれない病気で、当時はまだしっかりしたデータもなく私もいろいろと研究しましたが、輸液の濃度が濃すぎると浸透圧の関係で尿に栄養が出たりするので難しい点もありました。その後患者さんの絶対数が少なかったことなどもあり、しばらくは普及しなかったようです。しかし、腸から栄養がとれない患者さんにとっては驚くほど効果が出て、それまでは栄養不足で術後の傷がくっつかないというような患者さんでも手術が可能になることもありました。ただ今日ではこれらの輸液の調製には無菌調剤が求められますので、クリーンルームなど設備導入に関しては敷居が高く簡単に踏み切れないのです。
設備にかかる費用の問題でしょうか
それももちろん無視できませんが、保険薬局では実際に無菌調剤ができる薬剤師さんが少ないことが問題です。大学の薬学部でも教育を進めているようですが全体的に見ればまだまだです。私たちの活動のひとつに薬剤師の職能向上を目指すというのがありますが、無菌調剤の実習を行い、すでに20名ほど参加されてます。また、ビデオによる講習を企画したり、現場での技術向上に努めています。実際に運営して初めてわかるノウハウも会員の皆さまに還元していきたいわけです。
これからの薬剤師のすがたはどのようなものでしょう
薬局は病院など医療機関と綿密な関係が必要で、24時間の在宅医療などが進んでいくと、医師、看護師など病院スタッフとチームを組んで仕事をしていくようになると思います。無菌調剤はほんの足がかりで今後様々なことに対応する必要が出てくると思います。そのために、知識と技術を磨いておかなければなりません。
最後に今後三洋電機に期待する事をお聞かせください
ユーザーに近い位置で商品開発を行って欲しいと思います。開発時点で私たちがモニターとなって、仕様に対する助言を行ってもいいと思っています。
病気療養の子供さんに笑顔が戻るとすごくうれしい
松山先生は平成13年、管理薬剤師として、現大阪府薬剤師会・中西光景会長や笠原先生の指導の元に会営南河内薬局で無菌室の立ち上げに関与され無菌調剤に取り組んでこられました。「小さいながら必死で闘病している子供達が、在宅での薬剤投与により、家庭での生活を送れるようになって、笑顔が戻ったのを見ると仕事が報われたなと感じます」と話されていたのが印象的です。