アジア全域に国際的ネットワークを構築してインフルエンザウイルスの解析と感染メカニズムの探求
東北大学大学院学系研究科 微生物学分野
東北大学は「杜の都」仙台の中心部に、明治40年に創設された3番目の旧帝国大学です。2007年に創立100周年を迎え、その間、数多の碩学と研究の成果を世に送り出してきた伝統ある大学です。この度、大学院医学系研究科微生物学分野の実験室に納入されたバイオハザード対策用P3ルームを取材させていただき、教授の押谷氏と助手の鈴木氏に研究内容などをおうかがいしました。
この設備はどのような目的に利用されているのですか
P3ルームは生物学的汚染が外部に及ばないよう設計されている設備です。現在はウイルスを培養し解析する作業をしています。また、微生物学分野以外の他の研究室とシェアしながらの多目的な運用も予定しています。
研究のテーマをお聞かせください
主に呼吸器感染症を引き起こすウイルスに関する研究です。一般的に言えばインフルエンザのウイルスが中心です。ただし、特定のウイルスを狭く深く解析しているというようなイメージではなく、感染のメカニズム全体が研究対象です。検体からの生きたウイルスの培養と解析、種の変異の発見とそのメカニズムの解析、さらに公衆衛生学的な立場からの感染ファクターの解析など広範囲な研究となります。
ワクチンの調剤はなさらないのですか
調剤はしませんが、感染のメカニズムを究明することによって、より適切なワクチンの使用法や効果的な感染の防御法が解明できます。
海外の研究機関などへご出張が多いと聞きましたが
研究対象が広いと言いましたが、インフルエンザウイルスの場合、感染経路も広くほぼアジア全域になります。シベリアから東南アジアにかけての広域に渡ってトレースする必要があります。ですから、国内の検体の解析だけでは研究が不十分でアジア各地の検体を調べる必要があります。また、例えば日本では低温で乾燥した冬季にインフルエンザが流行しますが、暖かくて湿度の高そうな東南アジアでも同じく流行する。このようなことは実際現地での調査が必要となります。したがって、立体的に感染のメカニズムを探ろうとすると必然的に海外の研究機関との連携が不可欠となるのです。共同研究をしているフィリピンの研究機関からは多くの検体を持ち帰り解析していますし、最近モンゴルとも研究を始めました。
ウイルスは目に見えない微小な存在でなんとなく恐怖感がありますが
SARSが出てきたときのように新種のウイルスの取り扱いは対処法がつかめるまで多少怖いところはありますが、すでに対処の仕方がわかっているウイルスに関しては問題はありません。
ウイルスを日常的に扱うP3ルームはどのような特長があるのですか
CPCなどのように内部空間を超清浄に保つという考え方の逆、つまり汚染されたものを内部空間に閉じこめ外へは一切出さないという装置です。内部気圧を-50Paの陰圧とすることで外へ出てゆけないようになっています。また、排気する内部の空気はHEPAフィルタ※を通すことで除菌する。というのがおおよその構造です。
(※捕集効率99.97%、0.3μm以上)
セキュリティ面の強化を追加されるそうですが
いままでこのような施設はバイオハザードだけを考えて対策すればよかったのですが、最近ではバイオテロというものも考慮しないといけない時代です。扱うものがやはり危険物ですから、そういうものに対するセキュリティが必要です。監視カメラであるとか、災害時も含めて電気が遮断されたときのバックアップ電源の確保であるとか。検討中の事案もあるのですが早急に実現したいと考えています。
今後の展望などをお聞かせください
海外の研究機関との共同研究などネットワークを充実させて、新興感染症をどのようにに防ぐか。また、どうコントロールするか。が大きな課題です。そのためには基礎研究だけにとどまらず海外の各地をモニタリングできるような研究体制を構築しなければと考えています。また、呼吸器感染症だけではなく狂犬病などの研究も予定しています。しばらくはアジア中心に研究を進めていきたいと考えていますが、時間の余裕ができればアフリカのウイルスもやりたいと思います。
アジア各地の検体が解析される、バイオハザード対策対応のP3ルーム実験室