目次
クリニック開業の適齢期
クリニック開業の適齢期は、40代から50代前半が目安です。早い方だと30代前半から独立を目指す医師がいる一方で、50代後半に開業を決意される医師も増加傾向にあります。適齢期の理由は、開業医に求められる3つの役割を果たすために必要な経験と、事業継続性の両面によるものです。

開業医には①医師②管理者③経営者の役割があります。各役割の中身は以下のとおりです。
| 役割 | 中身 |
|---|---|
| ① 医師 |
|
| ② 管理者 | 看護師や医療事務スタッフをまとめるチームマネジメント能力 |
| ③ 経営者 | 長期的な事業計画を立案し実行するビジョンと戦略 |
必要な経験を積むには一定の年数がかかります。さらに、近年の物価高騰に伴い、テナント契約費用、建物・内部造作、医療機器・備品など開業資金全体で1億円程度かかるといわれています。そのうち、2,000万円自己資金で準備できると理想的であり、その自己資金を準備する期間も考慮しなければなりません。
なお、開業費用について資金計画の観点からまとめた資料を用意しているため、あわせてご覧ください。
ダウンロードはこちらから:資金計画から見る、用意するべき資金と後悔しないポイント
必要な経験・能力の習得、自己資金の準備、長期的な事業継続の要素を総合的に考えると、40代から50代前半が開業の適齢期といえます。
クリニック開業の平均年齢
日本医師会が2009年に実施した全国調査の結果より、クリニックを新規開業する医師の平均年齢は41.3歳です。

出典:社団法人日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf)
注目すべきは、開業年齢が年々高くなっている点です。開業30年超の医師では平均37.5歳だったのに対し、開業5年以内の医師では平均44.9歳となっています。30年前は30代での開業が主流でしたが、40代以降に開業するケースが増加した傾向が明らかになりました。
現在の勤務先で専門性を高め、管理職としての経験を得てから独立する意識が強まっている傾向があるといえるでしょう。
クリニックを承継する場合の適齢期
クリニックを継ぐ場合の適齢期は40代が1つの目安といえます。開業と同様、承継後に20年程度の事業継続が見込まれるためです。
なお、厚生労働省の2022年の統計では、診療所に従事する医師の平均年齢は60歳を超えています。60歳以上の医師が全体のほぼ半数を占めており、高齢化が進むなかでの事業承継は喫緊の課題となっています。

出典:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/dl/R04_kekka-1.pdf)
クリニックの承継には、実子・第三者問わず、譲渡側と承継者が一緒に勤務する引き継ぎ期間が必要です。譲渡側が70代前半までに承継を完了し、承継者が後に20年程度事業を継続するのを考えると、40代での承継が適切な時期といえます。
開業の動機はさまざま
クリニック開業の動機は医師によって異なりますが、日本医師会のアンケート調査によると、「①理想の医療の追求」「②将来に限界を感じた」「③経営も含めたやり甲斐」がベスト3となっています。

出典:社団法人日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf)
動機は、医師としてのキャリアをどう築くか、どのような働き方を実現したいかの個人の価値観に深く関わっています。上位3つの動機について詳細をみていきましょう。
(1)理想の追求
開業動機のトップは、理想の医療の追求です。勤務医としての将来に限界を感じるとともに、勤務医では得られない仕事へのやりがいを求めて、医師としてのキャリアアップを目指す姿がイメージされます。
理想を求めて開業を目指す背景には、当直や勤務の拘束時間が多いこと、毎日の診療に追われて医師としての医療水準の維持が難しいことなど、業務実態の課題があるためです。
後述のグラフにもあるように、5年以内の開業医の6割は、このまま勤務医を続けるより開業して理想の医療を追求したいと開業しています。


出典: 社団法人日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf)
(2)労働環境が悪い
2つ目の開業動機は、精神的ストレスや過重労働による疲弊など、労働環境によるものです。開業10年以内の医師の3割が、労働環境の問題を開業の動機と回答しました。

出典: 社団法人日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf)
具体的な負担としては、当直に加えて長時間勤務による時間的拘束、診療以外の会議や資料作成などが挙げられます。業務が積み重なり、勤務医の過重労働が深刻化している実態をあらわしているといえるでしょう。
(3)収入が少ない
収入面での不満も、開業を決意する動機の一つです。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、年収1000万円未満の勤務医の5割以上が給与に不満または少し不満と回答しています。

また、同調査での労働時間別にみた給与・賃金に対する満足度では、労働時間が長くなるほど満足度が低下している結果も明らかになりました。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf)
長時間労働に見合った収入が得られない不満が、開業を検討するきっかけの一因となっているのは、想像に難くありません。
開業医の定年について
開業医には定年がなく、生涯現役で働き続けられます。勤務医の場合は勤務先の定年退職規定に従う必要があり、60歳定年後に再雇用し65歳で定年を迎える形が通例でしょう。
医師免許自体に有効期限はないため、開業医であれば年齢に関係なく診療を続けられるのは大きなメリットです。
ただし、高齢になると診療科ごとの事情を考慮する必要が生じます。たとえば、内科では比較的長く診療を続けやすい一方、外科や歯科では高齢化により視力や手指の動作に制限が生じて、能力を最大限発揮できなくなる可能性があります。
将来的に開業を考えているなら、体力的な負担を考慮したキャリアプランの組み立てが重要です。手術主体の外科医から、開業医としてのニーズが多い整形外科やリハビリ、訪問診療などの経験を増やす方向を検討してもよいでしょう。
開業医の平均年収
開業医の平均年収は、およそ1,900万円です。開業医は勤務医よりも収入が多いイメージをもっている方もいるかもしれませんが、運営コストや税金を引いた額が手元に残ります。
具体的な項目と金額は以下のとおりです。
| 項目 | 金額および税率 |
|---|---|
| 年間医業収入 | 9,698万円 |
| 医業・介護費用 | 6,532万円 |
| 医療利益 | 3,166万円 |
| 所得税率 | 40% |
| 手取り額 | 1,899.6万円 |
出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)」P24一般診療所(個人)(集計2)
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf)
参考:国税庁「№2260所得税の税率」
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
一方、医療法人化した場合の年収は、以下のとおりです。
- 有床診療所:3,438万円
- 無床診療所:2,578万円
出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)」P304一般診療所開設者別(集計2)
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf)
開業するかどうかを適切に判断するには、単純な年収比較だけでなく、働き方や生活スタイル、経営の負担なども含めた総合的な視点が求められます。
なお、診療科別の平均年収を知りたい方は、まとめた記事を用意しているため、参考になさってください。
参考記事:開業医の生涯年収まとめ。診療科目・開業年齢別
自己資金なしでも開業は可能
自己資金がなくても開業は可能ですが、あまり推奨できません。一般的な診療科では、賃貸物件であっても1億円ほどの開業資金が必要といわれています。訪問診療や心療内科など設備投資が少ない診療科では開業コストを低くおさえられますが、それでも自己資金ゼロでの開業は経営リスクが高くなってしまいます。
また、金融機関の融資審査では返済能力が重視されるため、自己資金がない場合は高コストでの資金調達になり、ハードルも上がります。
よって、開業を志した時点から自己資金2,000万円を目標に貯蓄計画を立て、地元金融機関に1、2年後の開業に向けて融資相談するところから始めるとよいでしょう。着実に貯める姿勢を示せば、金融機関からの信用を得られる可能性が高まります。また、地域によっては補助金や助成金を設けている場合もあるため、活用に向けた情報収集も欠かせません。
開業資金の詳細についてまとめた資料を用意しているため、以下よりダウンロードしてご利用ください。
無料ダウンロードはこちらから:資金計画から見る、用意するべき資金と後悔しないポイント
開業にベストなタイミングとは
開業にベストなタイミングは、一人ひとりの状況や目標によって異なります。重要なのは「将来、自分がどうありたいか」を明確にイメージできるかどうかです。
近年、若い医師が早期に開業を決断する一方で、50代以降の開業も増えています。今の50代・60代は肉体的・精神的にも若々しく、社会への参加意欲も旺盛です。「診療の第一線から退くにはまだ早い」と、定年退職のない開業医への道を選ぶ医師が増えているのも自然な流れといえます。
開業のタイミングを決めるには、医師としてのキャリアパスと個人としてのライフプランを両立させる視点が必要です。そして、5年後・10年後・20年後の自分の理想像を思い浮かべ「理想に向けて何をすべきか」を今一度考えてみることをおすすめします。
まとめ
クリニック開業の適齢期は40代から50代前半とされていますが、実際には医師一人ひとりの状況や目標によって最適なタイミングは異なります。
専門科目・地域の医療ニーズ・家族構成・現在の勤務環境・キャリアビジョンなど、考慮すべき要素は多岐にわたります。5年後・10年後の自分の理想像を明確にし、逆算して今何をすべきかを考えるのが重要です。
「自分にとってのベストなタイミングはいつなのか」「今から準備を始めても大丈夫なのか」と悩まれている方は、まず専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。先生の年齢や専門科目、キャリアプランなどに合わせた開業計画をご提案します。以下より、お気軽にご相談ください。
開業相談はこちらから:新規開業・事業承継・M&A等に関するお問い合わせ
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