2. クリニックを辞めたいスタッフへの対処法とは?
クリニックを辞めたいと表明したスタッフへの対処法は、個別で話を聞くぐらいしかありません。また、個別で話を聞き、クリニックとしてできることを提示しても退職を撤回するケースはほとんどありません。
したがって、クリニックを辞めたいと表明したスタッフへの対処ではなく、辞めたいことを表明するか迷っている段階のスタッフを把握することが重要なのです。そのために職場の雰囲気を高めスタッフとのコミュニケーションの機会を仕組み化することをおすすめします。
(1)職場の雰囲気を高める事を意識する
職場の人間関係の改善は日々の仕事の中で信頼関係を築いていくことですから、一朝一夕では改善できません。だからこそ、クリニックの経営者である院長は日々、職場の雰囲気を高めることを意識してコミュニケーションをしやすい環境を整えなければなりません。雰囲気を高めるコツは、「何をするか?」より「何を止めるか」です。
経営者は結果を求め変化したい場合、つい不足しているところを補うために「追加する行動」に目が行きがちです。しかし、どんなに素晴らしいノウハウでも、実施するタイミングが悪ければ無駄に終わるどころか、やればやるほど状況が悪化することさえあります。例えば、いくら週3回ジムに通って体を動かしても、炭水化物や糖分過多の食事のままでは体は変化しません。職場の雰囲気を高めるのも同じです。むしろ、後ろ向きなスタッフが多く職場の雰囲気が良くないと感じるなら「何をやるか?」より「何を止めるか?」、つまりマイナスを生じさせている原因を知り、それを排除するほうが早く結果に辿り着けるのです。
では一体、どんな行動を止めればいいのでしょうか?
筆者はこれまでクリニックに在職中スタッフ300人以上の面談を経験しました。
面談の際には、面談前に「スタッフ面談シート」をスタッフに記載してもらっています。シートの中の項目でクリニックの経営陣にやめてもらいたい行動言動を書いてもらっているのです。その一例をご紹介します。
①怖い雰囲気を出す
「怒る時は、その時失敗した事だけを怒ってください。他のこともたくさん言われると、何であんなこと今になって、と不満を言っている人が多いです」「院長が何も言わず怒っている態度を見て、今までのスタッフ全員が“院長が怖い”と言ってました」
②言うことがすぐ変わる
「院長は夢(長期目標)ばかりで目の前の今どうするかは一緒に考えない。また、その目標がすぐ変わる」「実現できないのはスタッフのせいだと、何でもかんでも人のせいにする」
③聞く耳を持たない
「スタッフの意見を取り入れてほしいです。面談などでこちらが意見を言っても結局は先生の意見で通ってしまう事ばかりなので、面談などしてもあまり意味が無いと思います」
上記①~③の言動や立ち居振る舞いを止めたうえで、定期的にスタッフとコミュニケーションをとる機会を仕組み化していくことをおすすめします。
(2)スタッフとコミュニケーションをとる
スタッフ間のコミュニケーションを改善するには、クリニックのトップである院長がスタッフ一人ひとりといかに向き合うかがポイントとなります。
地域性や規模など、それぞれのクリニックによっても異なりますが、クリニックの実状に合ったやり方で実践しましょう。
【取り組み事例を紹介いたします。】
開業5年目の整形外科クリニックA院長は、スタッフ間のコミュニケーションを円滑に改善するために部門長、中心となっているスタッフとの個人面談を実践しています。
個人面談では、①承認する(何を言っても受け入れる)、②傾聴する(話を最後までじっくり聞く)、③フィードバックする(次の行動へつなげる)ことを重視しています。
特にフィードバックに重点を置いています。フィードバックの目的はスタッフの弱点を強調するのではなく、強みと改善点を洗い出し、さらに向上させることです。
特に次の3つの事項をフィードバックすると効果的です。
- Keep to do:どの取り組みに効果があり、継続すべきか
- Start doing:さらに良くするために新たに取り入れることは何か
- Stop to do:避けるべきことは何か
A院長は、スタッフの目に映る自分が変わることで、スタッフも必ず変わると信じて実践しています。上述した個人面談を3年間続けた結果、個々のスタッフとの関係性が良い方向に変わり、スタッフ間のコミュニケーションも良くなっているという手ごたえを感じているようです。