3. 開業で失敗しないためのポイント
ここまで述べたように、地域の医療ニーズに合わせた開業をすれば、失敗することはありません。しかし、開業すればどこでも誰でも成功するわけではありません。十分な医療圏調査もせずに、イメージだけで競合の多い都内中心地や高級住宅街で開業してしまうと失敗するリスクはかなり高くなります。
ほかの業種の起業と同様、地域のお客様(患者)ニーズに合わせた事業計画を立て、どんな診療を提供するのか、地域へ情報発信していくことが大事です。しっかりコンセプトを決め、戦略を立てることが成功への近道です。
開業そのものは難しくありません。ここでは、失敗しないためのポイントについて説明します。
(1)開業場所は慎重に選ぶ
立地条件は開業を検討する際の最重要事項の1つです。開業立地の選択を誤った失敗事例を紹介します。
開業立地にまつわる失敗事例
- 地域のイメージにこだわって、競合の既存医院や想定患者数を調べずに開業したため、ライバルが多く新規患者を獲得できない。
- 専門性にこだわって開業したが、その地域には専門性を生かせる患者が少なく、遠方からの集患目的のWeb発信もしていなかったので、患者が来ない。
- 想定患者が得られる地域と診療科を選んだが、道路や河川で地域住民の生活動線から外れた場所だったので人通りが少なく患者が来ない。
立地は賃料やスタッフの通勤にかかる交通費などの経費にも影響します。集患上は大通りの路面での開業が有利ですが、診療科によって例外があります。例えば、心療内科や泌尿器科はプライバシーに配慮して駅近の裏通りがよく、紹介と予約が中心の診療科は路面店である必要はありません。
立地は開業費用への影響も大きく、あとで変更できません。戦略をもとに総合的に検討し、慎重に選びましょう。
(2)経営スキルを身に付ける
開業医には次の3つの役割があります。
①医師としての役割:適切な医療技術の導入と提供
②経営者としての役割:経営面の戦略策定と決断
③管理者としての役割:働くスタッフの育成と組織運営
勤務医時代には、医師の役割と管理業務の一部を担うだけで良かったのですが、院長である開業医はクリニック経営の全責任者です。
理想の医療を提供すればお金はあとでついてくると思っていても、給与や家賃の支払いは待ってはくれません。一般企業の経営者と同様、ヒト・モノ・カネの経営資源の最適化・有効活用を行うことを常に考えて経営しなければなりません。
税理士さんに聞かなければ来月の収益の予定もわからない、経費の支払いで毎月四苦八苦している…ということになっては、開業して成功したとは言えません。
経営スキルは自然と身につくわけではありません。開業医の場合は、最新医療技術だけでなく、管理スキルや経営スキルも継続的に学び、実践することが大事です。
(3)人間関係のトラブルを防ぐ
人間関係のトラブルは、開業医の大きな悩みの1つです。勤務医時代には、スタッフ間のトラブルに関与する必要もありませんでしたが、それが原因で退職したり、院内の雰囲気が不穏になったりしては大変です。
スタッフ間の問題だからそのうち解決するだろうと思っていたら、そもそもの原因は、院長が適切な指示を出していなかったり、方針を決めていなかったりと、経営者の問題であることも少なくありません。
スタッフの教育や組織づくりは集患以上に重要な院長の仕事です。いい人が来ないと嘆く前に、経営者の想いを伝え、育成していくことで自立した組織をつくることができます。院長自身が院内のコミュニケーションの活性化に努め、一人ひとりへ気配りすることで人間関係のトラブルを減らせます。
(4)プロの開業支援を受ける
集患と採用、これは多くの開業医の二大悩みです。患者とスタッフから選ばれるためには、選びたくなる仕組みが必要です。それがクリニックのブランディングです。ブランディングができれば、ぜひあの先生に診てほしい、先生のところで働きたいというスタッフが集まります。
そのためには、院長の開業の想いを言語化し、クリニックの診療方針や経営理念として、スタッフそして患者に伝えることが大事です。その想いをスタッフと共有できれば、「こんな患者のために、こんな医療を提供しています」とスタッフ自身が伝えられるようになります。これが自立した組織づくりにもつながります。最近では、スタッフと一緒にSNSを活用して情報発信するクリニックも増えています。
Web広告で患者を集めることはできても、信頼獲得まではできません。