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CASE STUDIES 導入事例

慶応義塾大学 医学部 眼科学教室 (東京)

眼科領域で日本初の『ヒト肝細胞を用いる臨床研究指針』(厚労省)の承認を受け、難冶性眼表面疾患の再生医療を推進
慶応義塾大学 医学部 眼科学教室 准教授
医学博士 榛村 重人 
慶應義塾大学 医学部 眼科学教室 准教授 医学博士 榛村 重人 氏

眼科領域で日本初の厚生労働省の承認を受けられましたがこれはどのようなものですか

平成18年に厚生労働省から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以後「指針」と表記)が出されました。平成18年9月からヒト幹細胞臨床研究はこの指針による承認を受けて実施しなければなりません。幹細胞臨床研究は臓器機能再生など健康の維持、病気の予防、治療に大きな期待が込められ早急な研究成果が待ち望まれています。しかし個人の尊厳と人権を尊重し科学的知見に基づく有効性、安全性を確保するためには相応のシステムやルールが必要となります。そのために、臨床研究の多岐にわたって事細かく規定が定められ、研究者に遵守するよう求められています。そしてそのすべてをクリアしなければ承認がおりません。私たちの臨床研究である「角膜上皮幹細胞不全症に対する培養上皮細胞シート移植」はこの指針に基づき書類を提出し、指針に適合していると認められて平成21年に眼科領域においては日本で最初の承認が降りました。

先駆者ということで様々なご苦労があったと思いますが

一口では説明しきれないのですが、「指針」に適合するためには基本原則だけでも、有効性・安全性、倫理性、インフォームドコンセント、品質、公衆衛生上の安全配慮、情報公開、個人情報の保護とざっと7項目ほどありまして、さらに研究体制や幹細胞採取、細胞調製の品質管理、移植に関することなど細部にわたって書類を作成しなければなりません。まずその労力が大変でした。当医学部では細胞調製に関する研究はすでに14、5年くらい前からおこなってますが、今回の臨床研究は「指針」に準拠させるために一から資料をつくる必要がありました。さらに培養にはCPCの施設が必須となりますがその運用に関わるハード面、ソフト面に関するいくつもの書類も必要になります。当大学の倫理委員会の承認も含めて実際の移植まで約3年くらいかかっています。

CPCに関することではどのようなことが求められましたか

ヒト幹細胞を調製するわけですから高度な安全性の担保としてGMP準拠の品質が要求されます。CPCに関する書類については三洋さんにも協力いただきました。CPC内の作業に関しては作業手順書というものを策定し培養の工程をその手順に沿って管理しなければならないのですが、たとえばCPCで作業する場合は必ず二人体制で入室することになっていて、ひとりが作業し残りのひとりがその作業の記録を取ります。同時に監視カメラでも撮影し映像記録も残します。これらの記録は長期のものでは30年間の保管が義務付けられています。そして作業を終えるとその都度無菌性を維持するため清掃及び環境微生物のモニタリングを行います。

「角膜上皮幹細胞不全症に対する培養上皮細胞シート移植」についてお聞かせください

ヒトの眼の白目に当たる部分を結膜といいます。黒目に当たる部分が角膜です。この角膜を覆う部分が上皮細胞ですが、角膜と結膜の境界のリング状の輪部組織に幹細胞が存在し熱傷や疾病でこの部分が損なわれて幹細胞が障害を受けると角膜上皮を作れなくなり失明に至ります。このような症例では角膜移植手術での対応が難しい場合があります。そこでドナーから提供された角膜上皮幹細胞を培養して幹細胞が存在する上皮細胞シートをつくり角膜全面を覆うように移植する技術を開発しました。この術式では移植後早い時期から上皮化と上皮幹細胞の再供給を得ることができます。去年11月に移植手術した患者さんは術後3ヶ月の段階で経過は良好です。

角膜上皮幹細胞不全症に対する培養上皮細胞シート移植イメージ

この技術には随所に新しい試みがされているそうですね

培養上皮シートの調製方法として当医学部の福田恵一教授らが開発したフィブリンシートの技術を用いたこと。シートを作成する上で補助となる細胞=フィーダー細胞には従来マウス由来の細胞が使われていましたが、これを米国において安全性が確認されているヒト骨髄間葉系幹細胞に替えて二種類の幹細胞の調製となったこと。また、培養液はプリオンの汚染を避けBSE無発症国の安全確認の取れたウシの血清を使うこと、などが特徴です。

このような研究は今後どのような成果をもたらしますか

現在まだ実験レベルですが将来安全なiPS細胞が樹立されたら、現在の積み重ねたノウハウや技術を活かして、緊急時にストックしておいた臓器で対応したり、自己の細胞から必要な臓器を培養するなど再生医療の課題がいくつか解決すると思います。

角膜上皮細胞シートの培養

●培養工程の概略
①最初に補助細胞(フィーダー細胞)となるヒト骨髄間葉系幹細胞を解凍する。
②解凍後この細胞を培養し増殖させる。[約1週間]
③この細胞を、増殖を止める薬剤で処理してフィーダー細胞とする。[約1日]
④ドナーから提供された角膜の輪部組織より幹細胞を含む上皮細胞を分離する[約1日]
⑤福田先生の技術であるフィブリンシートの上に幹細胞を含む上皮細胞を播きフィーダー細胞と共に培養する。[上皮がシートを形成して移植できる状態になるまで約2週間から3週間位かかる]この間培養液は毎日補充が必要になるので連日の作業となる。

培養には2個から3個同じのものを用意し、その内のひとつは破壊的検査で角膜上皮の特長が発現しているかを確認する。また、生細胞率、細菌検査、ウイルス検査などの品質検査を行う。

この成果は21世紀COEプログラム『低侵襲・新治療開発による個別化癌医療確立』で立ち上げ、グローバルCOEプログラム『幹細胞医学のための教育研究拠点』が引き継いで管理している慶應ベクタープロセッシングセンター(KVPC)で実施された臨床研究です。

 

角膜上皮細胞シートの培養イメージ

慶應ベクタープロセッシングセンター(KVPC)

CPC内部は監視カメラによって常時録画されている
承認のために作成された書類の一部
一次ガウニング室イメージ
一次ガウニング室
二次ガウニング室イメージ
二次ガウニング室
デガウニング室イメージ
二次ガウニング室
細胞保存室
P2ルーム
前室

納入先

慶應義塾大学 医学部 眼科学教室
所在地 東京都新宿区信濃橋35
Tel 03-3353-1211
Fax 03-3359-8302
URL http://www.keio-eye.net
慶應義塾大学 医学部イメージ

納入機器

CPC施設/バイオハザード対策用キャビネット:MHE-130AB3×2台/CO2インキュベータ:MCO-20AIC×3台/超低温フリーザ:MDF-1155ATN×1台/MDF-192×1台/メディカルフリーザ:MDF-U537D×1台/研究用保冷庫:MPR-720R/薬用保冷庫:MPR-214F×2台/凍結保存容器:MVE-815P-190/多点環境モニタリングシステム

掲載内容は2010年3月現在のものです。

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