GMP準拠のCPC整備で 構想→計画→設計→施工には専門知識とノウハウが欠かせない
静岡県がんセンター研究所 細胞療法センター 免疫治療研究部
部長 秋山 靖人 氏
静岡県がんセンター研究所は、平成14年9月に開院した高度がん専門医療機関「静岡県立がんセンター病院」に隣接する研究部門として、平成17年の秋に主要施設が完成したばかりの研究施設です。“医看工”および“産学官”が連携した静岡県東部の富士山麓先端健康産業集積プロジェクト(ファルマバレー構想)のコア施設として、その完成が待たれていました。とくに同研究所の3階にある免疫治療研究部では、GMPに準拠したCPC(細胞療法センター)の計画・設計・納入を三洋電機と建設会社との協力体制によって進め、ようやく本年4月からの本格稼動を目指しておられます。
GMPに準拠したCPCをどう実現するか 専門知識のあるメーカーの協力が欠かせない
いま免疫治療研究部の細胞療法センター(CPC)では、本年4月からの本格稼動へ向けて次のプロジェクトを進めておられます。
①樹状細胞を用いた“がん免疫療法”の実施と開発
転移性メラノーマ(悪性黒色腫)について、臨床試験を進めてきた。この5年間で27例を実施している。今後は、難治性固形がん(胃・肺・大腸)を対象にした樹状細胞療法の開発を目指している。
②細胞障害性T細胞を用いた養子免疫療法の開発(エイブル社と共同開発)
患者の採血から単球を分離し、樹状細胞に成熟させたあと、抗原ペプチドで処理を行う。この樹状細胞とT細胞の共培養を実施して、がん細胞に対する特異的な障害活性を持つCTL細胞の増幅技術を応用した養子免疫療法を開発する。
いずれのプロジェクトも最先端の実験治療であり、患者さんの体外で免疫細胞を調製するため、GMPに準拠したCPCを整備する必要に迫られていました。
「研究そのものは、私が国立がんセンターに勤めていた時から着手していましたので、こちらに赴任しても同じように進められました。しかし、GMP準拠のCPCを計画・設置するとなると、これはもう大変です。研究内容は熟知しているものの、それを実現するための“理想の施設”となると、専門知識はほとんどありません。これはCPCの専門知識を有するメーカーに相談するしかないと、以前から付き合いのあった三洋電機に声をかけたわけです。それから3年がかりで、ようやく施設が完成しました。計画、基本設計、実施設計、建築の元請である建設会社との折衝、機器の選定、ありとあらゆる作業や雑用を共に携わって、今春4月からの本格稼動へ向けて、GMP準拠の施設管理、機器管理、無菌管理など、CPC運用に欠かせない業務内容の訓練をスタッフ全員で受けているところです。また、治験薬GMP文書についても、作成の支援をお願いしています。ようやくここまで漕ぎ着けたというところでしょうか。これも、三洋さんの協力の賜ですね」と秋山靖人部長はおっしゃいます。
研究プロジェクトのニーズをいかに設計へ反映させるかがポイント
東京・名古屋・京阪神というバイオ先進地域では、CPCを持つ大学や医療機関は珍しくありませんが、それらに挟まれた中間地帯である静岡県では初の施設でした。しかも県東部の富士山麓先端健康産業集積プロジェクト(ファルマバレー構想・別掲)のコア施設として、同研究所が位置づけられており、県内外の注目を集めている施設整備でもあったのです。
「ここより大きいCPCは、国立の大学や高度医療施設にはあるでしょう。しかし、県立施設で、この東海地域で、100平方メートルという中規模のCPCとなると、うちが初めてかもしれません。いろいろと相反する課題を克服して、いかに理想の施設設計へと近づけていくか、熱意と創意工夫、そして何よりも専門知識が必要でしたね。これからも研究の進行に伴って、施設や設備の方も発展させていかなければなりません。また、ソフトウェアの開発も必要です。だから、施設が稼動してからも、ぜひとも三洋さんの協力をよろしくお願いしたいと思っているのです」(秋山部長)
ここで、細胞療法センター(CPC)の特徴について、秋山部長に以下のようにまとめていただきました。
●GMPに準拠したCPC施設を計画するには、専門知識を有するメーカーの協力が欠かせない。三洋電機は、各地のCPCを数多く手掛けているし、バイオ関連機器も製造している。計画・設計・施工に当たっては、相談・助言・提案をしていただけた。
●調製した樹状細胞を凍結保存して、治験の段階に応じて融解して使用するのが、プロトコールの基本である。このプロトコールを、CPCで運用するために最適な部屋配置(ゾーンニング)、機器配置、動線管理、交差汚染対策などのデザインを提案してもらった。
●現段階では、理想に近いCPCだと思われる。また、東海地域でも、ファルマバレー構想でもコアとなるべき施設であるため、CPC外部からも主要な部屋を見学できるよう、ガラス窓を2カ所に配置できた。
「GMP準拠のCPCとして、まずハード面の整備はできました。4月からの本格稼動へ向けて、日常の操作・作業の訓練をしているところです。いまCPC業務に携わるスタッフは私を含め4人ですが、将来的には8人くらいまで倍増したいと考えています。この施設で、CPCを運用できるスペシャリストも、数多く育てていきたいと念願しています。CPCというのは、ハードだけで完成するものではありません。それを運用できる人、それを支えるマニュアルやソフトウェアなど、まだまだこれからの課題も山積み。着実に成果を出していけば、予算も付いてくると思いますよ」と秋山部長。
同施設への期待と、これからの研究開発への意欲はますます盛んなようです。