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細胞を安全に凍結保存するために コラム|未来を創造するサイエンス

細胞を安全に凍結保存するための有望な抗凍結剤

Roshini Beenukumar, PhD

ガンや他の疾患で画期的な細胞ベースの治療法が目指されている現在、細胞の凍結保存技術はますます重要性を増してきています。その中で研究者たちが常に追い求めているのは、細胞を解凍した後でもその機能が維持されているようにする手立てです。英国Warwick大学のDr.Baileyとその研究チームは、新たな凍結防止重合体を発見しましたが、現行法と比べて改善されている特長は凍結後の細胞の高い回復率と溶液系の不凍液使用の必要性がより低くなっていることです。
凍結保存とバイオバンキングの高まる要求

生体材料を長期間保存するニーズは増大してきています。研究ラボから臨床まで凍結技術は多大な適用分野にわたり、例えば(1)輸血、(2)骨髄移植、(3)人工授精、(4)体外受精、(5)凍結外科手術、(6)幹細胞および他種の細胞治療、などが考えられます。解凍後に機能と活性が高い維持率と再現性をと有していることは、臨床分野における望まれる治療効果のためにも、研究分野における生物学的現象の正しい理解のためにも、大変重要になってきます。

水の固液相転移の調整によって細胞をダメージから守る抗凍結剤

凍結保存の際に細胞内で氷が形成されることは細胞に不可逆的な損傷を与える恐れがあるので、細胞を凍結保存するときに直面する最も大きな問題になっています。そのために現在では凍結防止剤(CPAs)や抗凍結剤が利用されます。抗凍結剤は水の移動から結晶核形成そして氷の結晶形成に至る過程の速度を調整することによって、凍結の有り方を変える働きを持っています。世界の細胞バンクで頻繁に使用され抗凍結剤として効果があるのはDMSOです。他のCPAsにはグリセロール(1949年まで遡り、ウシの精液をマイナス79℃で凍結保存するために使われてきました)やエチレングリコール、プロピレングリコール、シュクロース、そしてトレハロースなどがあります。

水の固液相転移の調整によって細胞をダメージから守る抗凍結剤

これらの成分の抗凍結機能の大部分は、細胞膜を透過して細胞内の水成分と部分的に入れ替わる機構によります。しかしながら、それらの成分固有の浸透圧によって細胞内濃度が高くなれば毒性を持ってくるのです。シュクロースやトレハロースは細胞膜透過能が無いのですが、その代わりに、細胞膜を固定し保存状態にします。このようなCPAsは、私たちが開発したCPAsと組み合わせて使用せねばならないケースが多くならざるを得ないと考えられます。

DMSOは全ての細胞に使えるわけではない-他にも使える抗凍結剤のニーズの高まり

DMSOは現行では哺乳類細胞を懸濁状態で凍結保存する第一の選択標準となっています。細胞は5-10%DMSO溶液の入ったバイアル内で凍結保存されます。しかしDMSOを抗凍結剤として使用するには下記のようにいくつかの注意が必要です:

  • 一旦DMSO溶液内で凍結されれば、細胞はアッセイに供する前に何回か培養増殖する必要があります。
  • DMSOに感受性を有する細胞が数多くあります。
  • DMSOは単層培養細胞を凍結する場合、回復率が20-30%しかないので、最適ではありません。

このように、現行の抗凍結剤に取って代わりこれらのいくつかの或いは全ての課題を解決できるようになることが喫緊のニーズなのです。

両性電解質重合体-新たに注目される重合型抗凍結剤

カルボキシポリリジンのような両性電解質重合体はプラスとマイナスの両方の電荷を持つ重合体です。細胞膜と相互作用し、冷凍用バイアル内でガラス化して抗凍結作用を持ちます。冷凍用バイアル内で単層の低速ガラス化と低速凍結をおこないます。現在開発中の理想的な重合型当凍結剤に期待される機能を下記にまとめれば:

  • 解凍後の細胞が高収量
  • 簡単な脱着
  • 市販できる量の生産が可能
  • 細胞を懸濁状態でも単層培養状態でも適用可能
  • 細胞タイプが持続可能で最小限の改質で済む

本研究では、Warwick大学のDr. Baileyとその研究チームは新規的な両性電解質重合体型抗凍結剤を報告しており、上記の課題の多くに対応できると期待されています。

細胞単層の形態を維持できる確実な抗凍結剤

細胞単層の形態を維持できる確実な抗凍結剤

新規的な両性電解質重合体型抗凍結剤は、細胞単層の形態で凍結が可能であることが確実であることを示していることから「Warwick剤」とも読み替えられます。この新しい物質は有核細胞と無核細胞を含む多くの種類の細胞に対して、懸濁形態もしくは単層形態で低速凍結条件下で適用することになります。解凍後の単層接着細胞の収率はDMSOと比較して、Warwick剤が88%、DMSO法が24%と、Warwick剤が格段に高くなっています。これらの細胞タイプは高いDMSO濃度に感受性があるのでWarwick剤が最も適しており、収率を損なわずに懸濁形態の凍結保存を行うには、DMSO濃度を10重量%から2.5重量%まで下げることが出来るのです。

DMSOとは異なり、Warwick剤は細胞膜を透過せず解凍後も簡単に除去することが出来ます。Dr. Baileyとその研究チームはWarwick剤が細胞膜の損傷を低減させることも明らかにしました。赤血球を用いてその増殖速度が解凍後も変わらないことを示したのです。更には、このWarwick剤は臨床分野で使用する一般的なバルクポリマーからたったの1工程で作ることが出来るのです。

Warwick剤の作用機序は他の重合型抗凍結剤とは異なります。重合型抗凍結剤は多くの場合、氷の形成と成長を調整するように働きます。新規的なWarwick剤は氷の形成と成長の調整には緩やかに作用しますが、単層形態の細胞における解凍後の活性の増進に顕著に作用したのです(DMSOのみの場合の400%)。おそらく、細胞膜を透過せずに凍結保存中に細胞膜を安定化させながら細胞外からの作用であると考えられます。更にはグリセロールと比較してWarwick剤だけを使った場合の赤血球の解凍後の活性が報告されており、それによると80%以上の活性維持が示されていました。解凍後、Warwick剤は容易に除去することが出来ることも更なる優位性だと言えます。

結論

より新しく高品位の抗凍結剤のニーズが増大してきています。新規的なWarwick剤は私たちの研究の進展に理想的な重合型抗凍結剤と言えます。それは細胞膜を透過せずに細胞膜を安定化させ、解凍後の速やかな細胞回復と増殖能を約束します。高い細胞収率は研究分野にも臨床分野にも重要な役割を果たしています。更には、多くの特長を持つWarwick剤によって細胞治療や再生医療の分野でコスト低減を期待することもできるのです。

Warwick大学化学部と医科学部の教授で本研究の責任著者であるMatthew Gibson教授は、「凍結保存は現代のバイオサイエンスと医学の分野の基盤となっていますが、高度細胞治療のニーズに合致したより良い方法を採用していくことが喫緊の課題になっています。私たちが開発した新しい保存用の材料はスケールアップが容易ですので広く使われる際には大変便利と言えます。そしていろんなセルラインを安全に防護していくのに大変役立つこともわかりました。私たちのシンプルなアプローチ法は具体的な応用技術に対応しやすくヘルスケアや基礎研究両分野に大いに活用されると思います。」と説明しています。

今後の課題

細胞治療のニーズがますます高まる中、コスト効率と安全性に優れた細胞バンキングのシステムの開発に、さらに時間とリソースを投入していく必要が不可欠です。以前のブログ記事で、新規的な超低温冷凍法による生体材料の長期保存技術について紹介しました。これからの研究ではより安全な抗凍結方法の開発に集中し、生体試料の完全性に与える影響を最小に抑え、市販化できるレベルまで最適化を目指すことが肝要だと考えられます。

参考文献

1. Freezing cells made safer thanks to new polymer made at University of Warwick. EurekAlert! https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-07/uow-fcm072919.php.

2. Bailey, T. L. et al. Synthetically Scalable Poly(ampholyte) Which Dramatically Enhances Cellular Cryopreservation. Biomacromolecules 20, 3104–3114 (2019).

3. Jang, T. H. et al. Cryopreservation and its clinical applications. Integr. Med. Res. 6, 12–18 (2017).

4. Elliott, G. D., Wang, S. & Fuller, B. J. Cryoprotectants: A review of the actions and applications of cryoprotective solutes that modulate cell recovery from ultra-low temperatures. Cryobiology 76, 74–91 (2017).

5. Matsumura, K., Bae, J. Y. & Hyon, S. H. Polyampholytes as Cryoprotective Agents for Mammalian Cell Cryopreservation. Cell Transplant. 19, 691–699 (2010).

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