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血液バンク内にバイオバンク機能を入れ込んでいく利点 コラム|未来を創造するサイエンス

献血者の検体と健康情報が次世代バイオバンクのキーワードとなるか

Roshini Beenukumar, PhD

大規模なバイオメディカルやゲノム研究を行うための健康なコホートのリクルートに最適なのは献血者です。European Journal of Human Genetics誌の最近の研究では、献血者が検体と健康情報をバイオバンクに供与するにあたっての許諾の有り様が報告されています。本研究はフィンランド赤十字社(FRC)血液サービス部門で運営されるフィンランドのバイオバンクであるBlood Service Biobank (BSB)の設置に先立って行われました。
なぜ、献血者から広くバイオバンクとして使用する同意を取ることが重要なのでしょうか?

いくつかのバイオメディカルやゲノム研究は、ゲノムタイプと曝露される環境条件と様々な医学的条件との間の関連性を明らかにするために行われます。しかし、大変大規模な臨床研究を必要とするうえ、実際には実施困難なことが多いと言われています。血液バンク構想では、広く検体と健康情報の使用の同意が取れているバイオバンクとしての機能を有しますので、この問題の適切な解決法だと考えられます。献血者は、このような研究を行うにあたって健康個体群として最適なコホート(同じ属性もしくは同じ外的条件におかれた集団)であると考えられます。

献血者の検体と健康情報が次世代バイオバンクのキーワードとなるか

既存の血液バンク内にバイオバンク機能を入れ込んでいく利点とは?
1. インフラの再利用:

既存の血液バンク内にバイオバンクを入れ込むことができれば、ゼロからスタートする必要がありません。血液の収集・操作・保存管理が専門スタッフによって行われ、既存の献血者プールが活用できるなら、先進医療研究を推進するための再利用ということになるでしょう。

2. 縦の検体収集:

献血者バイオバンクには、同じ個人から何年もかかって手に入れた検体が収集されています。つまり、同一個人から得られた何年にも渡る情報を用いた「縦」研究を行うことができます。この情報をゲノム情報および健康情報と関連付けれることによって、大変役に立つ研究が多数可能となるのです。

3. 提供者の同意:

一般的に献血者はバイオバンク構想に賛同参加し、自分たちの検体と情報をゲノム研究に使用することに同意するものです。BSB のVera Raivola とその研究グループは、現在の献血者や献血行う予定の人たちが、既存の血液バンク内にバイオバンクを加えて、自分たちの検体や情報を科学的な研究に用いる事の意味付けを調査することを目的としています。同じ研究グループが行った過去の研究では、フィンランドの献血者は、通常の献血に加えて、自分たちの検体と健康情報が科学的研究に活用される事を意欲的・協力的に捉えていると報告されています。献血者等は、患者のためになり共通の利益に貢献することになるのだと考えています。

献血者等はバイオバンクへの参加にとても積極的です

献血者の多くはバイオバンクへの参加は良いことだと考えています。研究参加者の一人は「この試みは危険性もないし誤用されることもなく、少なくとも私は素晴らしい試みであると思っています。」と語っています。高度医療研究を目指した献血とバイオバンクの収集とのリンクは多くの参加者に肯定的に受け入れられていました。さらにそれは、他人の助けの為になる機会でもあって、自分たちの貢献が社会的幸福へとつながるという認識がなされていました。他の研究への参加者のコメントを引用すると「これ(the Biobank)は大変現代的、つまりこのようなシステムがあれば、何か全く新しい疾病が出てきたときに少なくとも何らかの対策研究が開始できるので素晴らしいことですよ。」と語っています。献血をよくおこなう人たちは、研究データの収集を血液の収集システムの中に入れ込むことは、いままでのような献血と健康データを供給するプロセスと同じように便利で効果的だと認識していると思われます。

しかし、データセキュリティとインフォームドコンセントに関連する課題が研究参加者から挙げられています。「研究参加者にしてみれば自分が参加した研究プロジェクトで、検体がどこに送られてどうなったのかというような基本的な権利はあるのではないでしょうか?」とある参加者は問いかけています。これはすなわち、バイオバンクは透明性を有することが献血者等の信頼を得るためには極めて重要なことと言えるでしょう。

広く同意を得るためにはバイオバンクの信頼性に依ります
献血者の検体と健康情報が次世代バイオバンクのキーワードとなるか

献血者がフィンランド赤十字社(FRC)血液センターを信頼している事が、バイオバンクに参加する基盤となっています。評判と所属(この場合はフィンランド赤十字社の組織であったこと)、歴史と良好な実績(この場合は血液サービス活動)、そして商業ベースではないことなどがバイオバンクの信頼の基盤として貢献していると考えられます。献血者等はBlood Service部門がバイオバンクのホスト候補として最適であると考えています。それはよく知られており、透明性をゴールとする非営利組織であって、共通の利益のために設立されたと考えられているからです。

献血者がバイオバンクへ進んで参加・協力するのは信頼があるから

Blood Service部門の業務に対して献血者が全般的にポジティブな評価していることが、事業主体やバイオバンクへの信頼度として働きます。研究を進めるに当たって、健康診断、看護師による専門的指導、軽食類の提供、そして十分な情報提供などにより、ポジティブな評価へと繫がっています。それによって献血者はケアされている安心感を持ち、体験全般において簡便でリスクが低いと感じているようです。これらのポジティブな実感とBlood Service部門への親近感によって多くの献血者がバイオバンクプロジェクトへ喜んで参加します。以前の研究でも献血者のポジティブな経験則、つまり、回数の多い献血者はより多くの血液を提供し、研究のプロセスがリスクが低く有益でやりがいがある場合は、研究目的に合致するような多くの情報を提供するということが強調されています。それゆえ、世界の血液サービス事業では献血者の満足度の向上に多大な労力を割いているのです。

地域社会の関与と情報交換は献血者の自発性に大きく影響

バイオバンク、血液バンク共に地域社会のサポートの持つ意味は大きいと言えます。地域社会のサポートを得るには、バイオバンク側はバイオバンキング実施とその医学研究における長期的な社会利益について十分に説明することが重要になってきます。献血者個々人については、バイオバンキング実施は情報セキュリティや商業利用面などにまだ議論の余地を残しています。バイオバンク側はこれらの課題を認識し、地域社会の参画による前向きな議論を行う必要があるでしょう。地域社会がどう関わるかによって、既存のそして潜在する献血者へのより良い情報提供が可能となりので、事業の広がりに大きな助けになると思われます。情報交換が進めば、献血者は自らの貢献を肌で感じ、研究者は、献血者から提供される検体や情報が大いに役立つことに自信を持てるようになります。この研究プロジェクトに参加した献血者は、献血とその重要性についての十分な理解があったことが重要です。とは言うものの、献血者はバイオバンキングとは何かそしてその本質的な利益は何かという事について、まだまだ理解していかねばならない事柄が残っているようにも思われます。よって、地域社会が参画するためのリソースを配置し献血者等との継続的な情報交換を行うことが大変重要なポイントとなるのではないでしょうか。

展望

本研究は、バイオバンクは信頼おける親しみ深い組織内に構築するのが献血者にとって重要であることを示唆しています。献血者がバイオバンクを信頼することは、その組織の評判や献血者の体験、地域社会の参画と献血者との継続的な情報交換ができるかどうかに大きく関わってきます。個人情報データを広く活用する同意が得られたバイオバンクを設立しようとする組織体に、本研究の成果を大いに活用していただきたいと考えています。

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参考文献

1. Raivola, V., Snell, K., Helén, I. & Partanen, J. Attitudes of blood donors to their sample and data donation for biobanking. Eur. J. Hum. Genet. 1–9 (2019).

2. Hawkins, A. K. & O’Doherty, K. Biobank governance: a lesson in trust. New Genet. Soc. 29, 311–327 (2010).

3. Mitchell, R. Blood banks, biobanks, and the ethics of donation. Transfusion (Paris) 50, 1866–1869 (2010).

4. Raivola V, Snell K, Pastila S, Helén I, Partanen J. Blood donors’ preferences for blood donation for biomedical research. Transfusion. 58, 1640–6 (2018).

5. Rigas, A. S. et al. Tools and challenges in creating a biobank in a modern blood bank: experience from the Danish Blood Donor Study (DBDS). ISBT Sci. Ser. 11, 182–187 (2016).

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