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iPS細胞の可能性と課題 コラム|未来を創造するサイエンス

人工多能性幹細胞(iPSCs)の可能性と課題:迅速な発生期iPSCs再プログラム化の新たな知見

Patricia Viard, PhD, HDR
どのような細胞系にも分化できる能力により、多能性幹細胞(PSCs)は再生医療分野において大変有望で[1]、パーキンソン病・アルツハイマー・虚血性脳障害・脊髄損傷・心不全・腎不全・糖尿病そして黄斑変性症などの多くの病変の治療を行うことが出来ると期待されています。

人工多能性幹細胞(iPSCs)と胚性幹細胞(ESCs)との比較

多能性細胞は従来マウス[2]やヒト[3]の着床前胚由来(胚性幹細胞:ESCs)の内細胞塊から採取していました。しかしヒト胚性幹細胞の利用は大変厳しい制限が設けられています。たとえば、様々な倫理的問題や研究に利用できるヒト胚性幹細胞の認可申請条件が限られているような課題が挙げられます。ですから過去10 年以上に渡って、体細胞から多能性幹細胞を形成させる代替案が研究されてきました。

よく使われるのは、Oct4・Klf4・Sox2・c-Myc(aka OKSM)を転写因子として強制発現させ、いわゆる人工多能性幹細胞(iPSCs)をマウス[4]やヒト[5;6]に形成するという事です。この革新的な試みは2012年に山中教授のノーベル賞受賞という形で世界から評価されました。更には、これによっていくつかの倫理問題を解決でき、また疾患モデルの作成[7]・ヒト組織工学[8]への優れた手段となり、細胞ベースの個別化治療への道を作ったと言えるでしょう[9]

「未感作」多様性状態と「感作後」多様性状態

体細胞の再プログラム化によってiPSCsが様々な多様性状態で形成されます。その多様性状態の両極端は「未感作」であるか「感作済」であるかという事になります[7;10]。マウス体細胞からは未感作のiPSCsを直接得ることが出来ますが、ヒトiPSCsの場合は、感作済状態に成りやすく、完全に未感作iPSCsに転換するには追加の操作が必要になります。未感作iPSCsはESCsに似ており、自己再生能と発生潜在能を有していますが、感作済iPSCsにはそれらの機能がありません。このようなわけで、幹細胞研究の優先順位としては、未感作iPSCsを作成することであり、それによって最も有効な治療可能性を確保することだと考えられています。

新生マウスiPSCsの卓越した発達潜在能

2018年にAmlaniとその研究チームがCell Report誌に発表した驚くべき報告[11]では、遺伝子組み換えマウス胚線維芽細胞(MEF)由来の未感作iPSCsについて、その中間期(Stage1)、発生期(Stage2)そして樹立期の発達能の比較が議論されています。

>新生マウスiPSCsの卓越した発達潜在能

MEFsからiPSCsを導出する際にはOKSM転写遺伝子のドキシサイクリン依存性発現から誘導します[12]。迅速再プログラム化は、MEFsをWntシグナル経路を促進するGSK3阻害剤と、アスコルビン酸下における腫瘍成長因子β受容体1拮抗薬とを組み合わせることによって行われます。それによって、クロマチンの再モデリングが促進され[13]、エピジェネティック位置の調整がなされる[14]と考えられます。

6日間の培養後、Stage1(S1)中間期コロニーが得られ、OKSM発現とは独立した機能アッセイを行うのに十分な量の細胞が手に入ります。さらに4日間培養すればStage2(S2)発生期iPSCsが得られますが、この操作にはドキシサイクリンと3種の化合物のカクテルは必要としません。次いで、分化を止める、血清と白血病抑制因子(LIF)を含有する培地で培養すれば、未感作iPSCsが得られます。

この迅速再プログラム化特長は、再プログラム化効率の変動制による細胞の異種化が起こりにくいことです。転換過程における生成分子の異常性[15;16]や、未感作状態を樹立するのに必要となる長時間の培養過程における非同時性[17]などを引き起こさないということです。これに続いて同種のiPSCsを大量に収集するには、フローサイトメトリーが最も適した手法となっています。蛍光リポーター遺伝子の発現によるiPSCs単離をおこなう機能性アッセイでは、マイクロフルイディクスによるオンチップソーティング技術が最適です。この方法は培地内の少量の試料を無菌状態で取り扱うのに適しており、他の方法と比べて細胞への物理的損傷を最小に抑えるメリットがあります[18;19]。この方法はiPSCsの保全性に大変優れており、4倍体胚盤胞に注入してiPSCs由来マウスを作製するのに最適な方法となっています。

Amlaniとその研究チームによる主たる研究成果[11]は、発生期S2 iPSCsの作製です。この分野の研究では完全な多能性未感作状態を手に入れる方法はまだ確立されておらず、樹立した未感作iPSCsによる4倍体相補性アッセイを超える発達能の獲得や、繁殖性を有するマウスの作製は課題となっています。本研究の結果は多能性の発達性については未感作状態の樹立に先立つ発生期iPSCsによって確立されていることです。興味深いことには、S2期細胞は樹立された発生期iPSCsよりも自己再生能は低く、自己再生能はiPSCsの潜在発達能を予測する指標にはなりにくいということが示唆されていることです。

新生マウスiPSCsの卓越した発達潜在能

本研究によって更に、過度のクロマチン再モデル化は体細胞遺伝子をサイレンシングし、S1中間期iPSCsで起こっているOct4のような細胞周期促進や多能性の発揮に関与するRNA転写を促進することがわかってきています。とは言うものの、4倍体胚盤胞に注入された場合にはS1期細胞に発達潜在能はありません。細胞の異種性に依拠するバイアスを取り除くには、S1期とS2期の細胞だけが蛍光リポーター遺伝子Oct4-GFP(Oct4-GFP+)を発現するようにして選別され、4倍体胚盤胞にiPSCsの注入がなされるようにせねばなりません。S2期細胞と比較すれば、S1期iPSCsは生存能力のあるマウスの作製が出来ません。例えば、遺伝子調整領域へのアクセスができるのか、あるいはアバンダントタンパクとの相互作用などが、細胞の発達を調整するS1期からS2期への転換に必要なのではないか等の主要な要因があるかもしれないとの議論は必要だと思われます。

S2発生期iPSCsの高い発達能は、多能性を脱して分化の開始時期になる機能が大きくなっているのではないかと考えられます。実際、本研究の著者等はS2期細胞が、培地からLIFを除去すると、分化が進み胚様体(EB)を形成する事を確かめています。面白いことには、S2期細胞から形成されたEBは未感作iPSCsと比べると、多能性を示すマーカーの発現が極端に低くなっていることがわかっています。これらの結果を総合すれば、S2発生期iPSCsは樹立された未感作iPSCsと比べて分化能がより高くなる傾向が示唆されます。このことは、胚盤葉上層マーカーOtx2[10]のS2期細胞と未感作iPSCsとを比較することで、感作済多能性マーカーの発現が多いことで説明できる部分もあります。実際、4倍体胚盤胞へのiPSCsの注入後、S2期コロニーから採取されたOct4-GFP+ Otx2-RFP+細胞によって、マウスの生存能は大きく上昇します。それとは対照的に、Oct4-GFP+Otx2-RFP+未感作iPSCsでは、4倍体胚盤胞アッセイにおいてOxt2の発現が低くなる結果を示します。

結論および予測

発生期マウスiPSCsの研究によって未感作状態の出現を含む主要分子と細胞イベントの新たな枠組みが示されました。ヒトにおいては、最近の研究によって発生期iPSCsの振る舞いを同定する細胞表面マーカーが明らかになってきました[20]。これらの解析は、モノクロ抗体とフローサイトメトリーとの組み合わせで、再生医療と疾患モデリングに最適なiPSCsの活用が出来ると思われます。この方法を応用すれば幹細胞バイオバンキングにおける品質管理にも利用できると考えられます[21]。もっと大切なことは、移植後の分化の失敗につながるiPSCsの潜在的な腫瘍原性を評価できるので、正確で信頼性の高いiPSCsの選択は臨床試験の安全性の前提条件にもなります[22]

参考文献

1. Cossu G, Birchall M, Brown T, De Coppi P, Culme-Seymour E, Gibbon S, Hitchcock J, Mason C, Montgomery J, Morris S, Muntoni F, Napier D, Owji N, Prasad A, Round J, Saprai P, Stilgoe J, Thrasher A and Wilson J. (2018). Lancet Commission: Stem cells and regenerative Medicine. Lancet 391, 883-910.

2. Evans MJ and Kaufman MH. (1981). Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos. Nature 292, 154-156.

3. Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS, Waknitz MA, Swiergiel JJ, Marshall VS, Jones JM (1998). Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science 282,1145-1147.

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5. Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. (2007). Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872.

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14. Stadtfeld M, Apostolou E, Ferrari F, Choi J, Walsh RM, Chen T, Ooi SS, Kim SY, Bestor TH, Shioda T, et al. (2012). Ascorbic acid prevents loss of Dlk1-Dio3 imprinting and facilitates generation of all-iPS cell mice from terminally differentiated B cells. Nat. Genet. 44, 398-405.

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22. International Stem Cell Initiative. (2018). Assessment of established techniques to determine developmental and malignant potential of human pluripotent stem cells. Nat. Comnun. 9, 1925.

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