2007年の設立当初のRMCは、マルメの医療機関が集まる地域の小さな建物にあり、スタッフは15人体制でした。体外受精の技術は長年発展を続けており、治療の対象も拡大しています。そのような中で、スウェーデンでは近年、生殖医療に関する新法が導入され、異性のカップルだけでなく、独身女性、同性愛や性別変更者のカップルも、体外受精などの生殖医療を受けることが可能になりました。今、RMCには45人以上の医師、胚培養士(臨床エンブリオロジスト)、看護師、助産師、事務職等が在籍しており、患者との面談回数は年間約28,000回に上ります。RMCの体外受精の培養室では1年間に1200件の新鮮胚移植と、600件の凍結融解胚移植を扱っています。またRMCでは、化学療法を受ける予定のがん患者や、ホルモン療法を受ける性別変更者に対して、「ホルモン補充」や配偶子の「妊孕性温存」のような治療法も提供しています。こうした治療により、患者の配偶子を損傷から守ることができます。さらに、RMCは独自のドナーバンクを持っており、提供配偶子の仲介も行っています。
体外受精に関して、RMCはイェーテボリ(Gothenburg)のサルグレンスカ(Sahlgrenska)体外受精クリニックに次いで、スウェーデン国内で2番目の規模です。
RMC培養室の部門責任者であるインゲラ・リルジェクヴィスト・ソルティック(Ingela Liljeqvist Soltic)博士に、施設の設備や移転の経緯などについて伺いました。「RMCでは、体外受精を超えてさまざまな治療を提供しており、ルンド大学、マルメ大学と提携しているマルメのスコーネ大学病院(Skåne UniversityHospital)だけでなく、スウェーデンとデンマークの他の不妊治療クリニックとも、生殖関連研究について協力関係を築いています。以前のRMCは手狭になり、移転先となる広くて新しい施設を探していました。ガスや液体窒素の供給を支障なく受けることができて、体外受精の培養室の必需品についてもサポートを受けることができ、かつ、交通の便が良く患者が容易にアクセス可能な建物、という条件でしたが、これを満たす場所を見つけるのに7年かかりました。そして、2021年の秋にようやく新築の施設に移転できました。この建物の床面積は、以前の建物の約3倍です。」
配偶子や胚は感受性が高いため移転の際も環境を維持し続ける必要がある
RMCのような体外受精クリニックで扱う配偶子や胚は非常に感受性の高いものであり、精密に制御された環境が必要です。移転や拡張に際しては、この環境を維持し続けるために詳細な検討が必要になります。
「体外受精には、培養に適した制御環境を整えることが必要不可欠です。そしてその環境を継続的に管理して至適な状態を維持し続けなければなりません。もし環境が不安定であった場合、その影響は培養開始時だけでなく、エピジェネティクスの観点で将来的に誕生する子どもの遺伝的性質に長期的な影響を及ぼす可能性があるのです。
そのため、配偶子や胚にとって適切な環境を保つことが、常に私たちの業務の中心となっています。」とソルティック博士は説明します。
「配偶子と胚は、環境のあらゆる変動に対して非常に感受性が高いため、温度、pH、ガスなどの環境を安定的に保つことが不可欠です。RMCのクリニックやクリーンルームの移転計画を策定する際も、環境維持が主な焦点となりました。RMCには、大人の患者だけでなく、培養室に胚という『小さな患者』もいるので、その命を守らなければなりません。」
移転先の設備の配置も、環境維持のために十分に検討すべき事項です。
卵子が患者から採取された瞬間から、直ちに至適な環境に置く必要があります。そして、胚が子宮へと移植されるか、
ガラス化保存されるまで、培養室での受精と発育の過程を通して、至適な環境を維持しなければなりません。
「新しい機器の機能を十分に把握して操作に慣れておくことはとても重要です。
PHCbiのインキュベーターは動作の安定性が高く、とても良い結果が得られています。」
「クリーンルームやその内部の諸設備は、卵子を取り扱う作業手順に沿うように、配置されています。培養室を拡張する際には、培養室内での卵子や胚の移動を最小限に留めるなど、管理方法や手順について考慮した設計や設備配置にする必要があります。私たちが大きな注意を払っていることはどれも、卵子や胚の置かれる環境に関する事項です。」とソルティック博士は述べています。
体外受精施設の移転には細心の注意と綿密な計画が必要
RMCは何年も前から、もっと広い場所が必要だと認識していましたが、体外受精クリニックを移転させる際には特殊な課題があり、理想的な新しい施設を見つけて移転の準備を整えるためには相応のプロセスが必要でした。
ソルティック博士は、移転に至る経緯や施設に必要な条件についても説明します。「当施設はマルメ市のスコーネ大学病院に属しているので、大学病院に近く、しかも電車やバスの駅からも近い場所にして、患者のアクセスの便を良くしたいと思っていました。そして何よりも、技術的な課題に対処できる場所でなければなりませんでした。例えば、RMCでは週に1、2回液体窒素を搬入しなければなりません。また、二酸化炭素や窒素ガスは全てのインキュベーターに供給する必要もあるため、大量に納入されます。新しいRMCはさまざまな条件を満たしつつ、将来的に培養室エリアが拡張されたり、インキュベーターなどの機器が増えたりしていくことも想定して設計されています。インキュベーターは、配偶子や胚を取り扱う作業スペースだけでなく、最大で6日間に及ぶ胚培養でも使用されます。」こうした事項を考慮して、移転先の内装について綿密な計画を立てて設計するために、さらに2年かかりました。
「PHCbiのインキュベーターは器内のガス濃度測定のためにセンサーを導入しており、
迅速に至適環境に復帰できるという説明を目にしたのですが、それはまさに、私が作業用インキュベーターに求めていた機能でした。」
「患者はもちろんのこと、卵子や胚の最適環境を維持するために、クリーンルームの作業者にとっても使いやすく魅力的な施設にすることが重要です。
そのために、さまざまな検討を重ねて決断を下していく必要がありました。」とソルティック博士は述べています。
新しい機器の導入により培養環境の安定性も向上
卵子や胚の生存を維持して培養するためには、特定の温度や条件を満たす必要がありますが、インキュベーターは人工的な子宮の役割を果たし、生殖医療施設にとって必須の機器です。移転計画や設計の際には、RMCで有効活用できる製品を導入することも重要な検討課題となりました。
RMCでは、PHCbiの最新かつ最小のマルチガスインキュベーターであるMCO-50MPE(50L)を11台導入しています。
また、PHCの前身会社であるサンヨーとパナソニック製のインキュベーターも稼働しています。これらは、PHCヨーロッパの製品を取り扱う、スウェーデンの体外受精関連機器専門の販売代理店であるVitrotech(ビトロテック)社を経て納入されたものです。
「私がクリニックに着任した当時は、RMCには三洋とパナソニック製の50リットルのインキュベーターがありました。
それらは十分に高い安定性を持ったインキュベーターだと思っていますが、Vitrotech社からは新しいPHCbiのマルチガスインキュベーターについても説明を受けました。」とソルティック博士は話します。
胚培養士は日々、培養環境を可能な限り安定的に保つための努力をしています。新しい培養室に関しては、作業用インキュベーターをさらに導入することによって、扉の開閉による影響を最小限に留め、胚の環境変動も最小限に留める、というアイデアも出ていました。「PHCbiのインキュベーターは器内のガス濃度測定のためにセンサーを導入しており、迅速に至適環境に復帰できるという説明を目にして、新しい体外受精の培養室には作業用にPHCbiのインキュベーターを導入することにしました。」(ソルティック博士)
「配偶子や胚を取り扱う体外受精培養室内の全ての機器は、外部の測定機器と接続してモニタリングし、アラーム通知機能も持たせる必要があります。庫内容積が小さなインキュベーターは安定的な環境を維持しやすく、扉の開閉後も迅速に至適環境に復帰しますが、庫内容積が小さいと、ガスと温度を常時モニタリングするシステムを組み込むのは容易ではありません。しかし、内容積50リットルという小型のPHCbiのマルチガスインキュベーターは、RMCが使用する二酸化炭素濃度と温度のモニタリング装置への接続も容易でした。」(ソルティック博士)
移転の際にも手厚い顧客サービスと支援が力を発揮
Vitrotech社は機器の設置や、ガス供給への接続などについても手配しました。
「この施設では全てが新しく、ガスの供給ルートでさえ新たに確立する必要がありました。
この大変な作業の中で、Vitrotech社は、PHCbiの機器が適切に設置されていることも確認してくれました。」
そう語るソルティック博士と彼女のチームは、2021年の10月から新しいPHCbiのインキュベーターを使用しています。
「新しい機器に慣れるまでには少し時間がかかりました。RMCには以前パナソニックの製品もありましたが、PHCbiの製品とは操作パネルが異なっており、操作方法にも違いがあります。新しい機器の機能を十分に把握して操作に慣れておくことはとても重要です。PHCbiのインキュベーターは動作の安定性が高く、とても良い結果が得られています。また、顧客担当技術者と密に連絡を取り合い、良い関係を築くこともとても大切です。RMCの業務では、インキュベーターの動作状況は非常に重要で、もし正常に動作していない場合には、迅速に電話か訪問によるサポートを受ける必要があります。」(ソルティック博士)
「新しいPHCbiのインキュベーターの動作状況を鑑みて、今後旧型のインキュベーターを交換する際にはPHCbiの製品の導入を検討したいと思っています。
新しい体外受精クリニックを立ち上げて既存の施設から新しい施設へと移転することは、非常に難しいことでしたが、とても貴重な経験になりました。新しい場所での仕事はとても上手く行っており、将来的にも希望が持てています。」とソルティック博士は加えました。
「顧客担当技術者とは良い関係を築いており、電話や、訪問の両方を通じて助けてもらっています。
顧客担当技術者と信頼関係を築くことは非常に重要です。」
納入先
スコーネ大学病院生殖医療センター
the Reproductive Medicine Centre at SkåneUniversity Hospital, Malmö
納入機器
・CO₂インキュベーター MCO-50AIC 50 L
・マルチガスインキュベーター MCO-50M 50 L