コラム:クリニック開業基礎
コラム クリニック開業ポイント

クリニック開業における物件選びのポイント

  • クリニック開業基礎

1. まずは開業エリアを決めよう

開業エリアを決めることは、開業準備の中でも開業コンセプトを決めることに次ぐ重要事項です。開業コンセプトを考えている時点ではまだ頭の中や紙の上のことですが、開業エリアを決める段階になると、がぜん具体的になってきます。いよいよ開業準備も本格的になります。
開業エリアの候補地は、開業コンセプトによってある程度絞り込みます。大きく地域を絞り込むときに便利なのが、日本医師会の地域医療情報システム(JMAP)です。医師会会員が自地域の将来の医療や介護の提供体制について検討することを目的に作られていますが、誰でも無料で使うことができます。主な診療科別・二次医療圏別に年代別の人口推移や医療・介護ニーズの推移、人口10万人あたりの主な診療科の数とクリニック名が検索できます。
医師の偏在でクリニックが不足するのは、過疎地だけではありません。首都圏でも東京への通勤圏の埼玉・千葉県には、診療科によっては都内と比べて人口あたりのクリニック数が少ない地域があります。例えば、埼玉県川口市は隣接する東京都北区に比べて、今後も医療需要の伸びが見込まれますが、2020年現在で人口10万人あたりの内科クリニック数は北区の6割に過ぎません。詳しい診療圏調査をコンサルタントに依頼する前にざっくり開業エリアを検討するのに利用されてはいかがでしょうか?

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出典:日本医師会「地域医療情報システム( https://jmap.jp)」
▼開業地の選び方についてもっと知りたい方はこちら
成功のための開業地選び(1)
成功のための開業地選び(2)

2. 物件の選び方

開業エリアを絞り込んだら、次はいよいよクリニックの開業物件の検討です。いきなり不動産物件を探すのではなく、複数の候補エリアについて、「○○区内」や「○○市内」、または「○○線沿線」「幹線道路○○号沿線」などの範囲で、人口分布や競合クリニックの存在などを調べ、さらにエリアを絞り込んでから開業コンサルタントや地域の不動産会社に相談するのが効率的です。

(1)購入か賃貸かで選ぶ

開業形態の中で、「戸建て開業」は土地や建物を購入して開業する方法です。初期投資額は大きくなりますが、自由に設計でき不動産が資産として残ります。親族が土地を所有しているときや首都圏郊外や地方で開業するときの選択肢です。土地・建物をすべて購入する方法以外に、土地は借地で戸建てのクリニックを開業する方法もあります。
テナントビルでの開業ではどうしてもスペースに限りがありますが、リハビリ重視の整形外科や透析内科、介護施設の併設など広い敷地が必要な場合は、戸建てのほうが設計の自由度が高く、駐車場も広くとることができます。
初期投資は賃貸のほうが抑えられますが、長期的に考えると購入のほうが総支払額で有利になる場合もあります。開業地域の特性や不動産物件の希少性で判断します。
最近、増えているのが「建て貸し戸建て」です。地主さんに希望通りのクリニックを建設してもらい、土地・建物一括で借り上げる方式です。人口減で郊外の土地にマンションを建てるよりクリニックを建てて貸したほうが初期費用はかかっても20年から30年以上空室となるリスクがないので、地主さんにも歓迎されています。
戸建て以外では、ビルテナントの賃貸もしくは医療モールの賃貸契約が一般的です。

(2)医療物件のタイプで選ぶ

医療物件は、戸建て型、ビルテナント型、医療モール型の3つに分類されます。

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①戸建て型
戸建て型といえば、一昔前は地方の開業医の先生が住居兼診療所として開業するスタイルが主流でした。最近では、診察時間以外はプライバシーを確保したい医師や家族の希望もあり、診療所だけ独立して建てることも増えています。「建て貸し戸建て」の場合はビルテナント契約とは異なり、15年から20年の長期賃貸契約になります。
テナント物件が少ない地域で、かかりつけ医として地域医療に貢献したいと考える先生にとっては良い選択肢です。開業準備期間としては、ビルテナントや医療モールより1年ほど早く準備を進める必要があります。

②ビルテナント型
ビルテナントの場合は、ビルの一室もしくはワンフロアを借りて開業します。駅前や人通りの多い路面やわかりやすい場所に希望の物件があれば有利です。診療科によって、路面1階が有利とか高層階で目立たないほうがいいという条件があり、条件に合わせたビルを選択できます。駐車場がない場合もあり、交通アクセスの便利さ・わかりやすさも条件になります。
クリニック内装工事には、電気容量、排水管の位置、天井高、換気や重量制限など建物の条件があるので、事前に条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。

③医療モール型
1つのビルのワンフロアまたは複数フロアで、診療科目が異なる複数のクリニックを集めて開業する形式です。駐車場やビル内の共有スペースを広く設けることができます。地域の医療モールとして認知度が高く、医療モール単位で広告もするので集患しやすいメリットがあります。しかし、一般のビルに比べて、賃料や共益費が高く設定されています。

3. 物件を選ぶときに確認すべきポイント

物件を選ぶ際の確認ポイントは大きく3点あります。

(1)視認性の高い場所

視認性というのは、「遠くからの見つけやすさ」です。テナントビルではビル前に大きなテナント紹介のサインボードがあったり、建物の突き出し看板や窓ガラスに案内サインを取り付けたりすると迷わず見つけることができます。まれにテナントビルで看板設置不可という場合もあります。駅近でも場所がわかりにくいビルは避けたほうがいいでしょう。
地方の戸建ての場合は車での移動が多いので、周辺道路からの誘導看板や建物前に看板を掲げて、すぐわかるようにすることが大事です。

(2)周辺環境

テナントビルや戸建て周辺に飲食店や騒音・振動の発生するフィットネスや保育所などがあると、患者の求める清潔で静かな環境が維持できない恐れがあります。幹線道路の前でも駅からのアクセスが悪い、横断歩道が遠い、駐車場に入れにくいなどの問題があるかもしれません。開業前に平日日中と夜間に患者の利用する交通手段を使い、アクセスと環境を確認しておきます。

(3)保証金・フリーレント交渉

ビル開業の賃貸契約上の注意点は保証金とフリーレントです。テナントビルでは、一般的に飲食店の保証料は10カ月分と高めに設定されていることが多いのですが、クリニックは開業後の撤退は滅多にないので保証料の減額の交渉も可能です。
また、賃貸契約締結後に融資が決定し、内装工事の契約や設計が始まるため、内装工事着工までに2カ月以上かかることもあります。着工までは家賃の支払いを免除する「フリーレント」を受け入れてくれるオーナーも多いので、開業コンサルタントを介して交渉することをおすすめします。

4. まとめ

開業コンセプトに合わせて開業エリアを決め、物件を決めると一安心です。クリニック開業の成否は立地・建物にかかっています。戸建ての地主さん、テナントビルのオーナーや不動産会社と良好な関係を築くことが理想のクリニック経営への第一歩です。開業コンサルタントや仲介業者の力も借りながら、希望は希望として率直に伝え、不明なことは後回しにせず納得できるまで確認しましょう。物件が決まって初めて本格的に開業準備を始めることができます。

筆者プロフィール

株式会社アイリスプランナー

https://www.irispl.jp/

中小企業診断士/医業経営コンサルタント

奥野 美代子(おくの みよこ)

外資系ブランド27年の実績をもとにした「魅力発信ブランディング」コーチングで院長のビジョン実現とスタッフ育成を行い、採用・集患に悩むことなく地域から選ばれる開業医の魅力発信・ブランディングを支援します。