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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療について コラム|未来を創造するサイエンス

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療について

2021.3.11

コロナウイルス関連のニュースは大きく分けると、疫学に関するものとワクチンに関するものの、どちらかであることがほとんどです。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やその重篤な後遺症の治療薬については、ほとんどニュースになりませんが、COVID-19が世界的に広がる中で、今後、急性期の症状緩和とその後の後遺症を軽減することに重点が置かれることが予想されます。症状緩和と後遺症の軽減については、開発中の新薬と既存薬の両方が検討されています。

COVID-19の治療は、病期と重症度に応じて内容が変わります。無症候や軽症の症例では、特段の治療は行わないか、対症療法(例えば頭痛に鎮痛薬を用いるなど)に留まります[1]。入院や集中治療が必要な重症の症例では、適応外の承認済み医薬品や、緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)により使用可能な医薬品を用いて治療が行われています。

日本、アメリカ、中国を含む多数の先進国でEUAが出されていますが、COVID-19に関してEUAを受けている医薬品はほんの一握りです。他に、適応外の医薬品として、数十種類の抗生物質・抗ウイルス薬・抗炎症薬・サイトカインが、COVID-19そのものや、それに関連する重篤な症状の治療に用いられています。さらに今この瞬間にも、何百もの前臨床試験や臨床試験が進められています。

患者の病期によって治療法は大きく変わる

アメリカ疾病予防管理センター(the U.S. Centers for Disease Control and Prevention:CDC)によると、COVID-19の治療法は病期によって変わってきます。

アメリカ国立医学図書館(U.S. National Library of Medicine)による世界有数の臨床試験情報ウェブサイトであるClinicalTrials.govで「asymptomatic + coronavirus(無症状 + コロナウイルス)」というキーワード検索を行うと、144件の試験が表示されます[2]。ここで表示されるのは、無症状感染者の治療に関する試験です。ここで、検索ワードから「asymptomatic(無症状)」の単語を取ると、検索結果の数は約10倍になり[3]、ほぼ全世界の試験が表示されます。例えば同ウェブサイトには、日本の試験が17件、中国の試験が76件掲載されています。

症状が出始めた初期には、重篤な症状を防止することが目標です。そのような状況では、症状悪化のリスクがある患者に対して、バムラニビマブ(Eli Lilly社)[4]か、カシリビマブとイムデビマブ(Regeneron社)[5]の組み合わせ、という2つの抗体治療のうち、どちらかが処方される可能性があります。また、高リスク患者には抗ウイルス薬のレムデシビル(Gilead社)が投与されることもあります。病期がこの段階に入ると、免疫応答や炎症反応による組織の損傷を防ぐための治療が必要になります。

酸素吸入が必要な入院患者の場合、対処法は大きく変わります。この段階の患者には、レムデシビルとステロイド系抗炎症薬のデキサメタゾンのどちらか、または両方が投与されます[6]。デキサメタゾンは、長年の使用により有効性と安全性が確認されていますが、副作用が無いということではなく、投与により特に、耐糖能・被刺激性・食欲が変化する可能性があります[7]

またCOVID-19の治療においては、抗ウイルス薬・免疫療法・抗炎症薬(ステロイド薬を含む)・抗菌薬・体外式膜型人工肺(Extra Corporeal Membrane Oxygenation:ECMO)など、CDCのリストに掲載されていない数十種類の医薬品や治療法も適応になっています[8]。COVID-19に対する免疫学的な治療法には、免疫グロブリンと間葉系幹細胞・デキサメタゾンや他の副腎皮質ステロイド・ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬・インターフェロン・インターロイキン1と6、などを用いた方法があります[9]

イギリスのCOVID-19治療ランダム化比較試験(Randomised Evaluation of COVID-19 Therapy:RECOVERY)プロジェクト[10]は、決して包括的なものではありませんが、COVID-19の疾病管理について、基本的な方針を示しています。RECOVERYでは、低用量デキサメタゾン(現在は小児のみ)・コルヒチン(経口抗炎症薬)・トシリズマブ(抗炎症注射薬)・回復期血漿含有コロナウイルス中和抗体・Regeneron社の抗体カクテル・アスピリン(抗血栓薬として)といった一部の医薬品しか調査されていません。

病期以外に、既往症や、健康状態や潜在的な薬物相互作用によるリスク増大のおそれがある特定の患者層についても考慮する必要があります。

特定の患者層としては、小児・妊婦・がん患者・臓器移植患者・細胞治療中の患者・HIVキャリアなどが挙げられます。これらの患者層では十分には試験が行われておらず、副作用が増悪する危険性が残されています。COVID-19以外の疾病、つまり「併存疾患」を持つ患者は、COVID-19に対してリスクが高くなります。これらの患者は、他の医薬品も使用している可能性が非常に高く、薬物相互作用や毒性の重複などの問題も発生しやすくなります。

早期に治療法を開発するための工夫

通常、製薬会社と規制当局は長い時間をかけて新しい治療法の評価を行います。しかし、世界的規模のパンデミックによって経済・社会・健康に大きな影響が出ている現在の状況下では、完全な承認には程遠くEUAを得るためだけでも12年間もかかるような、悠長な開発時間をかける余裕がありません。被験者数の観点では、EUAでは第2相試験や第3相試験と比べて遥かに少ない人数で済みます。そのため多くの場合、臨床報告の内容が一致しないことになります。

その例の1つが、COVID-19の予防と治療の両方に用いられている駆虫薬のイベルメクチンの試験結果です。イベルメクチンの試験の一部では延命効果など病状の改善が示されていますが、他の試験では改善が示されていません[11]。イベルメクチンについては、COVID-19の予防に関する調査が引き続き行われています[12]

イベルメクチンのように上手く行かなかった事例もありますが、医薬品開発は変わらず前進を続けています。経口JAK阻害薬のバリシチニブは、COVID-19患者で多くみられる細胞免疫活性化や炎症の予防効果に関連した評価が進められています。バリシチニブは関節リウマチの治療で承認を受けた医薬品ですが、2020年11月19日、FDAは酸素療法を必要とする入院患者にレムデシビルと併用して使用する件で、バリシチニブの開発者にEUAを発行しました[13]

COVID-19の二次的合併症を管理し予防するため、患者に対して補助的な治療法が広く適応されています。COVID-19では、血栓症や血栓塞栓性疾患を伴う症例が多くみられるため、治療薬と予防薬の両方の観点で、いくつかの抗凝固薬や抗血小板薬について研究が行われています[14]。COVID-19の補助的治療法として、経口のビタミン補給やビタミンCの静脈内投与なども行われる場合があります[15]

まとめ

COVID-19については、予防のためのワクチンに多くの注目が集まっていますが、医薬品開発の現場では、主に入院患者や集中治療患者の急性期の治療法の開発を軸に展開しています。イギリスのRECOVERYのような大規模な試験や、有望な医薬品に焦点を合わせた他の取り組みが、COVID-19の治療法開発を先導しています。

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