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電子カルテを導入する際、必ず知っておいて欲しいこと。それが「カルテの保存期間」についてです。紙カルテと電子カルテでは違いがあるのか、根拠となるルールは何か、など電子カルテのプロが分かりやすく解説します。
カルテ(診療録)の保存期間は5年
診療報酬請求上のルールをまとめた、厚生労働省の「保険診療の理解のために(令和3年度版)」で、「診療録(カルテ)は、診療経過の記録であると同時に、診療報酬請求の根拠でもある。診療事実に基づいて必要事項を適切に記載していなければ、不正請求の疑いを招くおそれがある」と定義しています。つまり、カルテに書かれてなければ、請求してはならないとしているのです。いかに、カルテの記載が大切か分かります。 また、「保存期間」については、保険診療のルールを定めた「保険医療機関及び保険医療養担当規則(いわゆる療担規則)」によると、診療録は完結の日から「5年」、それ以外の帳簿・書類(例えばX線フィルムや領収書など)は「3年」と定められています。

第9条 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。(出典:保険医療機関及び保険医療養担当規則)
ちなみに、この完結とは、その患者の診療が完結した時と考えることになり、継続的に受診されている患者の診療録は5年が経過しても捨てるのは難しく、継続した保管が必要と考えられます。
また、日本医師会の「医師の職業倫理指針(第3版)」では、電子カルテなどへの移行が進む中で、診療録の保存期間は永久保存とするべきとしています。
記録保存形式の主流が紙媒体から電子媒体に移行しつつある状況において、診療諸記録の保存期間は診療録の保存期間と同じになるべきである。わが国では法律上5年という期間が定められているが、電子媒体化に伴い永久保存とするべきである。(出典:医師の職業倫理指針【第3版】)
このルールは紙カルテでも電子カルテでも同様となります。例えば、「紙カルテから電子カルテへの移行」するときも、「電子カルテから電子カルテの移行」に際しても留意しなければなりません。
カルテを効率的に保存するために
このように紙カルテは、このルールのために、簡単には廃棄できず、多くのクリニックで分厚いカルテをよく見かけます。その結果、カルテ棚がいっぱいになり、カルテの置き場所に困った挙句、別に倉庫を借りていることもあります。これは電子カルテの導入目的の一つにもなっています。カルテを長期間保存するためには、やはり電子化が必要となるのです。
さて、電子カルテ導入前のカルテはどう管理すれば良いのでしょうか。電子化する方法としては「スキャナーで取り込む方法」が考えられます。このスキャナーで取り込む際のルールも「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第5.1版)」で定められています。カルテをスキャナーで取り込んだとしても、全く同じものにはならないために、スキャナー後も紙カルテは保存しておくことを推奨しています。
スキャナー等で電子化した場合、どのように精密な技術を用いても、元の紙等の媒体の記録と同等にはならない。したがって、一旦紙等の媒体で運用された情報をスキャナー等で電子化することは慎重に行う必要がある。(中略)電子化した上で、元の媒体も保存することは真正性・保存性の確保の観点から極めて有効であり、可能であれば外部への保存も含めて検討されるべきである。(出典:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン【第5.1版】)
また、紙カルテをスキャナーで取り込んだ場合、改ざん防止を施す必要があり、「スキャナーによる読み取りの際の責任を明確にするため、作業責任者(実施者又は情報)が電子署名法に適合した電子署名・タイムスタンプを遅滞なく行うこと」を求めています。
カルテをデジタル保存する際に守るべきこと
電子カルテなど、カルテを電子化する際の根拠となる通知は、1999年の「診療録等の電子媒体による保存について」という当時の厚生省の通知で定められています。いまから20年以上前に出された通知です。
同通知では「電子媒体に保存する場合は3条件を満たなければならない」とし、カルテをデジタル保存する際に守るべきことを定義しています。これがいわゆる電子カルテの3原則と呼ばれるもので、「真正性」「見読性」「保存性」を担保していない電子カルテは保険医療機関として、利用ができないこととなります。
(1) 保存義務のある情報の真正性が確保されていること。
○ 故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
○ 作成の責任の所在を明確にすること。
(2) 保存義務のある情報の見読性が確保されていること。
○ 情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
○ 情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。
(3) 保存義務のある情報の保存性が確保されていること。
○ 法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること。
(出典:診療録等の電子媒体による保存について【厚生省通知】)
この3原則については「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」でも詳細に定義されています。「保存性」については、「記録された情報が法令等で定められた期間にわたって真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること」と定義し、カルテを電子的に保存する場合は、保存性を脅かす原因として、コンピュータウィルスや障害などによる破損等が起きないように対策を図ることを求めています。
昨今、ランサムウェアなどにより電子カルテに障害が出た事例が報告されており、急速にデジタル化が進む中で、医療機関に対してサイバーテロに対するセキュリティ対策を行うことを求めているのです。
まとめ
診療録の保存期間は、療担規則で「診療録は完結から5年」と定められています。これは紙カルテでも電子カルテでも同じルールです。電子カルテが主流となった現在では、半永久的に保管することが求められます。 電子カルテについては、「真正性」「見読性」「保存性」の3原則をクリアしたものしか利用できないとしており、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」で、保存性を確保するためには、外部・内部からの侵入による破壊等に対して、医療機関はしっかり対策することを求めています。
【参考】
保険診療の理解のために(令和3年度版) 厚労省
保険医療機関及び保険医療養担当規則 厚労省
医師の職業倫理指針【第3版】 日本医師会
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第5.1版) 厚労省
診療録等の電子媒体による保存について【通知】 厚生省