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特殊健康診断とは
特殊健康診断は、一般健康診断とは異なり、有害な業務に携わる従業員を対象として行う健康診断です。これは、労働安全衛生法第66条などの関連法令に基づき、一定の化学物質や有害作業に従事する労働者の健康リスクを抑える目的で義務付けられたものです。
なお、特殊健康診断の費用は会社が負担し、診断を受けている時間は労働時間として扱われます。

一般健康診断との違い
一般健康診断と特殊健康診断では、目的や実施のタイミング、検査内容などに明確な違いがあります。
目的の違い
一般健康診断は、労働者の一般的な健康状態を把握し、生活習慣病などの病気の早期発見と予防を目指すものです。一方、特殊健康診断は、有害物質や危険な作業環境に起因する健康障害を未然に防ぎ、早期に異常を見つけることが目的です。
実施時期の違い
一般健康診断は雇い入れ時に行う健康診断や、年1回のペースで行う定期健康診断などがあります。一方、特殊健康診断は、対象業務への雇い入れ時や配置転換時も実施が必要であり、その後は原則6か月ごと(一部の物質の胸部X線直接撮影は1年以内ごとに1回)に受診が求められます。とくにじん肺に関する検査は1〜3年ごとの頻度など、例外もあります。
検査項目の違い
一般健康診断では、主に血圧や血液検査、尿検査、身長や体重、視力測定など、全般的な健康状態をチェックします。それに対して特殊健康診断では、従事している業務のリスクに合わせて検査項目が個別に設定され、その業種で起こりやすい障害・疾病などに特化したチェックが行われます。
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特定業務従事者健康診断との違い
特定業務従事者健康診断と特殊健康診断は、名称が似ていることから混同しやすいですが、それぞれで対象や目的が異なります。特殊健康診断は、有害な化学物質や放射線、粉じんなど、健康への悪影響を及ぼしかねない特定の物質や環境で働く人が対象です。
これに対して、特定業務従事者健康診断は、重量物の運搬や深夜業といった危険を伴う作業に従事する従業員に向けて実施されます。さらに、特定業務従事者健康診断は、健康診断の区分上では一般健康診断に含まれていることも大きな違いです。
特殊健康診断の種類と対象者
特殊健康診断は、労働者が従事する特定の業務に応じて実施が義務付けられている検査です。対象となるのは8つの業務で、それぞれの作業環境やリスク要因に合わせた検査内容が定められています。さらに、これらに加えて「じん肺健康診断」と「歯科特殊健康診断」も同様の性質を持つ特別な健診として実施されています。以下では、それぞれの健診の概要を解説します。
特殊健康診断
特殊健康診断に該当する8業務について、どのような職種が対象となるのか、また実際に行われる検査にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。
高気圧業務健康診断
この健診は、潜水作業や地下のトンネル工事など、高圧環境下で働く労働者を対象としたものです。高気圧下での作業は体に負担が大きく、関節痛や耳鳴りなどを引き起こす可能性があるため、健康への影響を早期に確認する目的で実施されます。
検査内容には、既往歴やこれまでの高気圧作業歴の確認に加え、関節や腰、下肢に痛みがないかの確認、聴力や鼓膜の検査、血圧測定などが含まれます。必要に応じて、肺機能や作業環境の状態を確認する追加検査を行う場合もあります。
放射線業務健康診断
放射線業務健康診断は、放射線を扱う職場や施設で作業を行う従業員が対象です。たとえば、放射線技師や原子力施設などの職員が該当します。長期的な放射線被ばくによる疾患を防ぐため、定期的に健康状態を把握することを目的としています。
検査では、放射線被ばく歴の調査とその評価をはじめ、白血球の数および比率の測定、赤血球や血色素量の検査、さらに白内障の有無を確認する眼の検査や皮膚の状態確認などが行われます。こうした検査により、放射線による体への影響を継続的にモニタリングします。
特定化学物質健康診断
特定化学物質を使用する職場や、過去に取り扱い経験のある従業員を対象とする健康診断です。
ベンジジンや関連化合物を含む業務にかかわる受診の主な検査内容としては、作業歴・職歴のヒアリングから始まり、尿検査による血尿・頻尿・排尿時の異常の有無などが確認されます。
特定化学物質のなかには、胸部のレントゲン検査も実施されます。こうした検査を通じて、特定化学物質曝露による身体への影響を把握します。
除染等電離放射線健康診断
東日本大震災で放射性物質により汚染された地域で、土壌の除去や運搬などの「除染等作業」に従事する労働者を対象とした健診です。
電離放射線への被ばくによる健康影響を早期に把握することを目的とし、被ばく歴の有無と評価、白血球数や赤血球数、血色素量などの血液検査、白内障の有無を確認する眼の検査、皮膚の検査が行われます。
石綿健康診断
石綿(アスベスト)を取り扱う現場や、粉じんが舞う作業エリアで勤務する従業員が対象です。また、過去に石綿を扱っていた労働者も含まれます。
健康診断では、これまでの業務経歴について詳細に調査が行われます。検査内容は、咳やたん、息切れ・胸痛などの症状確認、加えて胸部のレントゲン検査が盛り込まれています。石綿は健康被害との関連が指摘されており、健康被害の未然防止が重要視されています。
鉛健康診断
有機溶剤健康診断は、有機溶剤を取り扱う作業に従事する従業員が対象となります。これらの物質を使用すると、揮発した成分が呼吸を通じて体内に入る可能性があり、短期的・長期的な健康リスクのどちらも無視できません。
健康障害の未然防止を目的に、作業内容や過去の業務経歴の確認、さらには有機溶剤が原因と考えられる症状の有無などについても調べます。また、業務を続けるうえでの体調変化や自覚・他覚症状がないかどうかも細かく問診されます。
有機溶剤等健康診断
有機溶剤健康診断は、有機溶剤を取り扱う作業に従事する従業員が対象となります。これらの物質を使用すると、揮発した成分が呼吸を通じて体内に入る可能性があり、短期的・長期的な健康リスクのどちらも無視できません。
健康障害の未然防止を目的に、作業内容や過去の業務経歴の確認、さらには有機溶剤が原因と考えられる症状の有無などについても調べます。また、業務を続けるうえでの体調変化や自覚・他覚症状がないかどうかも細かく問診されます。
四アルキル鉛健康診断
四アルキル鉛を用いる業務に従事している労働者を対象に実施されます。
検査では、従事歴や日々の作業実態のヒアリングだけではなく、精神的・神経系の健康状態を主にチェックします。不眠や食欲低下、倦怠感、頭痛などの症状の有無が確認され、必要に応じて血液や神経系の検査も追加で行われます。
じん肺健康診断
じん肺健康診断は、現在粉じん作業に従事している労働者はもちろん、過去にそのような作業を経験した労働者も対象となります。診断の受診時期や頻度は管理区分や就業歴によって異なります。
粉じん作業に従事する従業員
対象となるのは、現在粉じん作業に従事している労働者や、これから新たにその作業に就く労働者です。診断項目としては、職歴を中心とした粉じん作業歴の確認や胸部X線撮影などが含まれています。
また、健康診断では「管理1~管理4」のじん肺管理区分が判定され、その区分により次回以降の健診頻度が決まります。
- 管理1(所見なし)は基本的に3年に1度の健診となります。
- 管理2・3(レントゲン検査で一定の所見あり等)は毎年1回の頻度で受診が必要です。
過去に粉じん作業に従事していた従業員
一方、過去に粉じん作業に従事していた労働者にも、定められた条件に応じ診断が行われます。検査項目そのものは現役従事者と基本的に同様ですが、健診実施の周期が異なります。
- 管理1なら以後の健診は不要とされます。
- 管理2の場合は3年ごとに健診を受けることが規定されています。
- 管理3の場合は1年ごとに健診を受けることが規定されています。
- 管理4の場合はじん肺の進行が高度な状態であり、医師の指示に基づき治療・療養等を優先した健康管理が必要とされます。
歯科特殊健康診断
歯科特殊健康診断は、一般的な歯の健康診断とは異なり、むし歯や歯周病の有無を把握することが目的ではありません。主に歯が酸によって溶けてしまう「酸蝕症」の発症を確認するために実施されるものです。
この検診が必要になるのは、塩酸や硫酸、フッ化水素、黄リンなどの強酸性化学物質を取り扱う現場で働く労働者です。代表的な職場例としては、メッキ作業を行う工場や蓄電池の製造現場などが挙げられます。
特殊健康診断実施後に企業が行うべき対応

特殊健康診断の実施はゴールではなく、その後の管理・対応も重要です。検査が終了した後、企業が求められる主な対応について確認しましょう。
作業環境の確認と改善
診断によって健康面での注意点が見つかった場合、その背景に作業場の環境が関係していることも考えられます。まずは環境測定を行い、空気や設備などが法令を満たしているかを確認しましょう。必要に応じて、換気システムの導入や設備の更新など、抜本的な改善策を実行します。
さらに、健康異常が見つかった従業員については産業医や歯科医師の意見も踏まえて検討し、その内容を職場の安全衛生委員会などに共有することが求められます。
就業場所や作業内容の変更
健康診断で異常が認められた従業員については、状況に応じて部署や担当業務の見直しを検討することが必要になります。負荷の少ない職場や作業に配置転換したり、体調を考慮して残業や夜間シフトを控えるといった対策を取ることで、従業員の安全確保と健康回復につなげていきます。
労働基準監督署への報告
特殊健康診断を実施した企業は、結果を取りまとめ「特殊健康診断結果報告書」を所轄の労働基準監督署長へ提出する義務があります。健診種類ごとに定められた様式を用い、所見の有無や事後措置の状況などを漏れなく記載し、遅滞なく報告することが求められます。
検査結果の保存
企業は、特殊健康診断の結果を法定期間保管しなければなりません。保存期間は検診の種類によって異なり、一般的なものは5年間ですが、石綿関連など一部は最長40年の保管義務があります。
また、この義務は退職者にも及ぶ点に注意が必要です。管理方法は紙媒体・電子データいずれでも可能ですが、いずれの方法でも紛失や漏えい防止に十分配慮しましょう。
特殊健康診断を実施しなかった場合の扱い
特殊健康診断の実施義務がある業務にもかかわらず健診を行わなかった場合、どのような指導や罰則があるのかを解説します。
労働基準監督署から指導が入る可能性
特殊健康診断は、労働安全衛生法第66条により事業者に実施が義務付けられています。規定された業務で健診を受けさせていない場合には、法令違反とみなされ、労働基準監督署の調査や指導が入ることがあります。その際は、速やかに健診を実施し是正することが求められます。
罰則が適用される可能性
健診未実施が長期間改善されない場合、最終的に50万円以下の罰金が科される可能性があります。通常はまず是正指導が行われ、それでもなお健診を行わない場合に限り、罰則が適用される流れとなっています。
まとめ
特殊健康診断は、有害な作業に従事する従業員の健康を守ることを目的とした法定健診です。検査項目は業務の内容によって異なり、法律でおおむね半年ごとに実施するよう定められています。対象業務がある企業には実施義務があるため、必ず行うようにしましょう。
加えて、特殊健康診断とは別に、一般健康診断も定期的に行う必要があります。健康診断関連の各種調整や事務作業は人事や労務担当者にとって大きな負担になることも珍しくありません。
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