コラム:クリニック開業基礎
コラム クリニック開業ポイント

開業医の初期費用は?医師の開業資金や年収相場などを解説

  • クリニック開業基礎

1. クリニック開業に必要な初期費用の相場

クリニック開業に必要な開業資金や開業後の収入については、クリニックのコンセプトによって大きく変わります。コンセプトとは、どんな医療方針でどんな患者にどのような治療を提供するかを決めることです。
クリニック開業に必要な初期費用の中でも大きな割合を占めるのは、クリニックの建物取得と医療機器に関する費用です。コンセプトによって開業地域と診療科も変われば、必要とされる医療機器やクリニックの必要面積も変わります。
開業すると決めたら、医師としての視点だけでなく経営者の視点でじっくりコンセプトを検討し開業計画を立てることが成功の秘訣です。
一般的な内科クリニックの開業に必要な開業資金について示します。

開業資金:内科クリニック、ビルテナント開業40坪の場合

筆者調べ
開業資金内訳 建物・内装 3,000万円~ 不動産費用・内装工事
不動産取得費用:仲介料、礼金・保証金、前家賃など。家賃の10ヶ月分程度
内装工事費:坪50~60万円
医療設備費 3,000万円~ 医療設備・OA・家具什器
医療設備:電子カルテ、レセプト、X線撮影装置、超音波診断装置、心電計、内視鏡など
OA・家具什器:PC、診断ベッド、院長机・椅子、待合ソファ、休憩室家具、家電など
開業準備費 700万円~ 医療消耗品、採用・研修費、集患・広告費、医師会入会費用、備品など
運転資金 3,000万円~ 固定費6ヶ月分
開業コンサルタント 300万円~ クリニック開業専門コンサルタント、経営塾費用など
開業初期費用合計 10,000万円~

(1)開業時に必要な土地・建物資金について

開業に必要な土地・建物資金については、開業形態によって大きく異なります。主な開業形態として3つの形態を示します。

    • ①戸建て開業
    • ②ビルテナントで開業
    • ③医療モールで開業

①戸建て開業
戸建て開業には、(ⅰ)土地取得戸建て開業、(ⅱ)定期借地戸建て開業、(ⅲ)建て貸し戸建て開業などがあります。
(ⅰ)土地取得戸建て開業:土地取得費用が必要で一番費用がかかりますが、設計の自由度は最大です。
(ⅱ)定期借地戸建て開業:建物は自由設計できますが、定期借地権終了後に更地にして返す必要があります。
(ⅲ)建て貸し戸建て開業:地主さんに建物を立ててもらい賃借する契約です。

②ビルテナントで開業
ビルテナントでの開業は、一番費用がかからない方法なので、首都圏に限らず地方都市でも一般的です。ただし、クリニック開業に必要な電気容量増設や空調、排水、電磁シールドなどの特殊工事ができないビルもあるので、事前のチェックが大事です。

③医療モールで開業
医療モールとは、集患が見込める地域に建てられる医療施設専門ビルのことです。競合しない診療科を集めて募集されます。自院で集患や広告を出さなくても集患できるメリットがありますが、一般のビルに比べると賃料や管理費が高額です。また、ほかのクリニックとの相性や患者の取り合い、ほかの診療科が入らず患者が来ないなどのリスクもあります。
参考までに、主な内科の専門科別に目安となる広さと建物取得費を示します。

筆者調べ
単位(万円) 必要面積 取得費 内装工事費 合計目安 備考(面積は平均値から試算)
内科 35~45坪 600 2,400 3,000 内視鏡ありの場合は45坪以上
小児科 30~40坪 500 2,400 2,900 2診+隔離室、X線装置ありの場合
心療内科 25~35坪 400 1,800 2,200 検査、カウンセリング室を設けた場合
消化器内科 40~50坪 600 3,000 3,600 トイレを多めに、準備・回復室要
神経内科 60~70坪 900 5,000 5,900 MRI導入時は+20坪、磁気シールド強化工事要
透析内科 100~120坪 1,500 8,500 10,000 20床の場合。中和装置、電気工事他設置条件厳しい

(2)開業時に必要な医療機器費用について

開業時に必要な医療機器費用については、どんな診療を提供するかによって大きく変わります。医療機器選定に関して注意点が3つあります。

①本当に必要な医療機器だけを導入
独立後も理想の治療を提供したいと高額な医療機器を導入しがちですが、機器によっては設置スペースや特殊な設備工事、専門医療スタッフが必要になります。初期費用の医療機器費用が増えるだけでなく、賃料やリース料・人件費などの固定費も増加し、開業後の収支に大きく影響します。最近では画像検査・診断専門クリニックも増えているので、本当に診療に必要な医療機器かを判断することが大事です。

②医療機器の定価は“あってないようなもの”
医療機器の設置を決めてもすぐにメーカーを決めて発注せず、必ず複数の卸業者に相見積もりを依頼し検討します。特に大型医療機器は高額なので、必ずしもトップメーカーの最新機器だけでなく型落ちモデルや2番手メーカーの最新機器もあわせて検討することをおすすめします。そうすることで、コストを抑えて必要な医療機器を導入できる場合もあります。

③購入かリースか購入形態を検討
医療機器は、金融機関からの借入で購入するだけでなく、リースで導入することもできます。リースの場合は、機器の所有者はリース会社になり、毎月のリース料金は経費になります。
主な専門科別に、一般的に必要となる医療機器とその費用の目安を示します。

筆者調べ
診療科 項目 費用(万円) 合計(万円) 内訳
内科 医事ITシステム 400 1,700 電子カルテ3台・Web予約・オンライン診療
①内科基本機器 300 血圧検査装置、滅菌器、AEDなど
②診断・撮影機器 1,000 超音波診断装置、X線撮影装置など、CR/PACS装置
小児科 医事ITシステム 400 700 電子カルテ3台・Web予約・オンライン診療
①内科基本機器 300 血圧検査装置、滅菌器、AEDなど
心療内科 医事ITシステム 300 300 電子カルテ2台・Web予約・オンライン診療
消化器内科 医事ITシステム 400 2,400 電子カルテ3台・Web予約・オンライン診療
①内科基本機器 300 血圧検査装置、滅菌器、AEDなど
②診断・撮影機器 1,000 超音波診断装置、X線撮影装置など、CR/PACS装置
③消化器内科 700 内視鏡検査システム、内視鏡洗浄機など
糖尿病内科 医事ITシステム 400 1,000 電子カルテ3台・Web予約
①内科基本機器 300 血圧検査装置、滅菌器、AEDなど
②検査機器 300 検査機器(HbA1C測定器、尿検査)など

2.開業医の1カ月あたりの収支の相場

クリニックの収支については、毎年、厚生労働省から個人医院と医療法人別に主な診療科の損益状況の統計資料が公開されています。
個人医院では、収支の差額がそのまま院長の年収になります。最新の統計では、月収171万円、年収にすると約2,000万円です。ここから所得税などの税金を払い、借入金を返済した残りが院長の収入になります。

医療法人では、収支差額の利益は個人医院より少ないのですが、院長の給与は経費に含まれます。この利益は、医療法人としての利益になります。

医療法人内科 および 個人内科クリニックの収支/ひと月あたり

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査) 報告」2021年11月より筆者作成
個人内科クリニック 医療法人内科クリニック
内訳 単位(万円) 内訳 単位(万円)
A.収益/月次 577 収益/月次 1,101
B.経費/月次 406 B.経費/月次 1,054
C.収支/院長収入(A-B) 171 C.収支/利益(A-B) 47
年収(税引前) C ✕ 12ヶ月 2,052 税引前利益 C ✕ 12ヶ月 564

(1)1カ月あたりの収入相場

前掲の最新調査では、個人医院の収益は一月あたり平均577万円です。診療コンセプトによって平均診療単価は違いますが、一般内科で5,000円前後、循環器や呼吸器など専門内科で6,000円から8,000円です。577万円の収益は、診療日を月25日とすると1日あたり23万円、患者数で40人強になります。
第23回の医療経済実態調査の結果では、新型コロナ禍の受診控えの影響もあるようで、平均収益が減少していることがわかります。過去数年、個人内科クリニックの平均収益は、7,600万円/年 前後で推移しています。平年の収益相場としては、月平均約600万円が目安です。

医療法人の内科クリニックのひと月あたりの平均収益は、約1,100万円ですが、新型コロナの前は1,350万円*でした。患者数は約80人です。平年の収益相場としては、月平均約1,300万円を目安とするとよいでしょう。

医療法人内科 および 個人内科クリニックの収益/ひと月あたり

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査) 報告」2021年11月より筆者作成
個人内科クリニック 医療法人内科クリニック
内訳 単位(万円) 内訳 単位(万円)
収益/月次 577 収益/月次 1,101
外来保険診療報酬 510 外来保険診療報酬 943
その他医療収益 67 その他医療収益 125
介護収益 0 介護収益 33

(2)1カ月あたりの支出相場

クリニックの経費で大きいのは人件費と賃料です。クリニックの黒字経営の目安として、人件費を収益の50%以下、賃料を10%以下になるように事業計画を作ります。
個人クリニックでは、人件費に院長の給与は含みませんが、事業計画上は、院長の給与相当額と借入返済額を加えて収支差額が黒字になるように支出総額を算出します。
人件費については、給与だけでなく社会保険や福利厚生費も考慮しなければなりません。個人医院で常勤スタッフ5名未満の場合は社会保険に加入する義務はありませんが、看護師などの医療スタッフは社会保険完備の病院から転職することが多いので、社会保険未加入の個人医院は採用が難しくなります。最初から社会保険に加入するか、扶養範囲で働きたいパートスタッフを複数雇う方法を検討します。

医療法人内科 および 個人内科クリニックの経費/ひと月あたり

出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査) 報告」2021年11月より筆者作成
医療法人内科クリニック 個人内科クリニック
内訳 単位(万円) 内訳 単位(万円)
経費/月次 1,054 経費/月次 406
人件費(院長給与含む) 580 人件費(院長給与は含まず) 153
医薬品・材料費 162 医薬品・材料費 109
その他経費 312 その他経費 145
収入(収益-経費)/月次 48 収入(収益-経費)/月次 171
税引前利益 574 年収(税引前院長の収入) 2,051

3.クリニック開業のポイント

ここで、クリニック開業にあたってのポイントをご紹介します。

(1)診療のコンセプトを決める

クリニックの開業を決めて最初に行うのは、診療コンセプトを決めることです。診療コンセプトは、ビルを建てるときの設計図のようなものです。設計図なしにビルを建てることができないように、開業するにあたってコンセプトを決めて、詳細の事業計画を立てることが必要です。

診療のコンセプトを決めることは、クリニック経営の5W1Hを決めることと同義だと言えます。

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【クリニック経営における5W1H】

    • Why 開業の目的
    • When 開業時期、診療時間
    • Where 地域・開業形態(戸建て、テナント、医療モール)
    • Who/Whom 誰が(専門性)・誰に(患者)
    • What どんな診療を(専門性、標榜科、診療サービスなど)
    • How(much/many)  どのように(保険診療・自由診療、差別化ポイントなど)

最初に検討するのは、「Why:開業の目的」です。何のために開業するのかは、診療方針や事業計画を考える上での基本になり、開業地や開業形態を決める上での判断基準にもなります。医師として、できること(能力・専門性)とやりたいこと(理念・志)が明確でも、地域の診療ニーズがなければ開業することはできません。開業準備で迷うことがあったら、必ず開業目的に立ち戻って考えます。

(2)開業立地は慎重に選ぶ

診療コンセプトを決めたら、開業候補地域を絞ります。開業後の成否を決める患者数は、地域の人口分布と既存クリニックの数・所在地からある程度想定できます。街のイメージや先入観ではなく、「提供する診療コンセプトに合う患者が得られるかどうか」という視点で慎重に選びます。
開業立地を決めたら、不動産情報はネットだけに頼らず現地の不動産会社に相談するか、クリニックの賃貸案件を多く扱う開業コンサルタントに相談します。地元のよい物件はネットには出ないことも多く、不動産会社の信頼を得ることでよい物件をいち早く紹介してもらえます。
人通りが多く視認性のいい場所が最適ですが、幹線道路沿いや駅近でなくても大きなスーパーや学校の近く、生活道路沿いなどのほうが利用しやすい場合もあります。候補地を決めたら、診療時間内で曜日と時間帯を変えて、人の流れをチェックすることも大事です。

(3)クリニック開業のポイントは診療科目によって違う場合も

最後に診療科目によって注意するポイントを挙げます。
まず、標榜科についてです。
内科の専門医の資格を持ち、循環器内科・呼吸器内科・神経内科など専門性を打ち出して開業する場合でも、単科だけでなく「内科」も標榜します。専門領域の患者をより広い地域から集患するとともに、風邪や腹痛の際に気軽に診てもらえるかかりつけ医として地域に認知されることで、専門領域の予備軍の患者を獲得できます。
内科の立地としては、人通りの多い路面一階が有利ですが、例外もあります。
糖尿病内科や神経内科は、通りがかりに新規患者が来院することは少なく、大病院や一般内科からの紹介で通院を始め、その後は予約で通院を継続することが多い特徴があります。アクセスがよければエレベータのあるビルの上層階でも問題ありません。賃料を抑えた分、医療機器や専門スタッフの人件費を増やすこともできます。

もっと診療科目別に開業ポイントを知りたい方はこちら

4.まとめ

新型コロナウィルス禍が長く続き、クリニックの経営にも大きな影響が出ています。2021年8月の新聞報道でも、「クリニックの休廃業・解散が急増 後継難にコロナ禍」という記事がありました。院長が高齢化し後継者のいないクリニックがコロナをきっかけに廃業しています。クリニックの廃業が増えているのは、逆に言えば新規開業のチャンスです。開業コンセプトをしっかり立て、開業支援専門家の情報ネットワークを活用し、医療ニーズが高まる地域で開業を目指しましょう。

筆者プロフィール

株式会社アイリスプランナー

https://www.irispl.jp/

中小企業診断士/医業経営コンサルタント

奥野 美代子(おくの みよこ)

外資系ブランド27年の実績をもとにした「魅力発信ブランディング」コーチングで院長のビジョン実現とスタッフ育成を行い、採用・集患に悩むことなく地域から選ばれる開業医の魅力発信・ブランディングを支援します。