目次
健康診断の種類
まず、健康診断の種類について確認しておきましょう。健康診断は大きく「一般健康診断」と「特殊健康診断」に分けられます。
一般健康診断の中にはいくつかの種類があり、このうち「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」は、業種や業務内容を問わず常時使用するすべての労働者に対して実施が必要です。
そのほか、「特定業務従事者の健康診断」「海外派遣労働者の健康診断」「給食従業員の検便」も一般健康診断に分類され、特定の業務に従事する従業員のみが対象となります。
一方、「特殊健康診断」は、有害物質や特定の危険因子を扱う業務に従事する従業員を対象としており、業務内容によって検査項目が異なります。実施頻度は、一般健康診断よりも多く、通常6か月に1回(検査項目によっては1年に1回)実施されます。

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健康診断結果が会社に届いた後に行うべきこと
健康診断を実施してから一定期間が経過すると、健診機関から結果がまとめて送付されます。では、会社に健康診断結果が届いた後、人事担当者はどのような対応を行うべきでしょうか。
各従業員への通知
健診機関から健康診断結果を受け取ったら、人事担当者は各従業員へ結果を通知する必要があります。その際、従業員ごとに個人票を作成します。通知方法は、結果を紙に印刷して配布する方法と、電子化してデータで閲覧できる形にする方法のどちらでも構いません。電子化すれば管理や通知の工数を削減できます。
二次検査の受診勧奨
健康診断の結果、検査項目の中に異常が認められた場合、その程度に応じて「経過観察」「要再検査」「要精密検査」などと判断されます。該当する従業員には、二次検査の受診を勧奨しましょう。
二次検査の受診は法的義務ではありませんが、事業者には対象従業員に対して受診を促す努力義務があります。
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産業医への意見聴取・就業上の措置
異常の所見があると診断された従業員については、産業医に3か月以内に意見を求め、医学的な観点から現在の業務を継続してよいかを判断してもらいます。通常勤務・就業制限・要休業の区分に分け、それに基づき就業上の措置を取ります。
この際、人事担当者と産業医だけで決定せず、本人の理解と納得を得ながら進めることが重要です。産業医面談を実施し、本人に現在の健康状態や業務負荷への理解を促しましょう。
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健康診断結果の保管
健康診断結果は、企業が法定期間保管する必要があります。一般健康診断の場合、保管期間は5年間です。特殊健康診断では種類によって異なり、最長で40年間の保管義務が課されるものもあります。
保管方法は紙媒体でも電子データでも問題ありません。電子化する場合は、情報漏えい防止のためアクセス権限の管理を徹底しましょう。
退職者の扱い
保管期間内に従業員が退職しても、健康診断結果の保管義務は継続します。定められた期間が経過するまで削除せず、他の個人データと区別して適切に保管することが重要です。
非正規雇用の従業員の扱い
常時使用する非正規雇用者(パートタイム労働者、アルバイト、有期契約社員)についても、正社員と同様に健康診断を実施し、結果を管理・保管する義務があります。
一方、派遣社員の場合、健康診断の実施や結果の保管は派遣元企業が行います。これは、雇用関係が派遣先ではなく派遣元にあるためです。ただし、特殊健康診断が必要な場合は派遣先企業が実施し、結果の保管も行います。
労働基準監督署への報告
従業員が50人以上の事業場では、健康診断実施後に労働基準監督署への報告が義務づけられています。報告対象は定期健康診断のほか、特定業務従事者健康診断や歯科医師による健康診断も含まれます。また、特殊健康診断については、従業員数に関係なく、実施したすべての事業者に報告義務があります。
健診機関から従業員へ直接通知される場合には
健診機関によっては、健康診断結果を各従業員の自宅に郵送するなど、直接通知するケースがあります。そのような場合、会社としてどのように対応すべきかを確認しておきましょう。
従業員から会社に提出してもらう
会社には、健康診断結果の保管義務、結果に基づく事後措置の実施義務、安全配慮義務などが定められています。これらの義務はいずれも、会社が従業員の健康診断結果を把握していることを前提としています。
そのため、会社が従業員の結果を把握できなければ、法的義務を果たすことができません。従って、健診機関から結果が直接通知された場合でも、従業員に健康診断結果の提出を求める必要があります。
また、会社と従業員の間には労働契約があるため、会社が業務上の必要範囲内で健康診断結果を取得することは認められています。
提出が必要な項目の範囲
定期健康診断では、法律で実施が義務づけられている11項目があります。会社に提出義務があるのは、この法定11項目の結果のみです。任意で追加した検査項目については法的な保管義務がなく、従業員が提出しなくても問題ありません。
ただし、従業員の健康管理に役立てる目的で任意項目も保管したい場合には、本人の同意を得たうえで対応することが望ましいです。
また、二次検査の結果についても提出・保管は義務ではありませんが、健康状態の継続的な把握のため、可能な範囲で提出を促すとよいでしょう。
提出を拒まれないためには
個人の健康情報はデリケートな内容を含むため、提出をためらう従業員もいます。その場合は、労働安全衛生法で定められた会社の保管義務を説明し、法的に必要な手続きであることを理解してもらうことが大切です。
また、「必要最小限の範囲で取り扱う」こと、「厳重な管理のもとで保管される」ことを具体的に伝えることで、従業員の不安を和らげやすくなります。安心して提出してもらえるよう、会社としての情報保護体制を明確に説明しましょう。
健康診断結果は要配慮個人情報に該当
健康診断結果は「要配慮個人情報」に該当するため、保管や管理にはとくに慎重な対応が求められます。ここでは、要配慮個人情報の定義と、具体的な取り扱い方について解説します。
要配慮個人情報とは
要配慮個人情報とは、2015年の改正個人情報保護法で新たに規定された概念です。個人情報の中でも、不当な差別や偏見を招くおそれがあるデリケートな情報が該当します。
具体的には、病歴、障害の有無、信条、人種、社会的地位などが挙げられます。健康診断結果もこれに含まれ、とくに慎重な取り扱いが求められる情報です。
要配慮個人情報の扱い
要配慮個人情報は、原則として本人の同意なしに取得することはできません。取得の際には、利用目的や管理方法を明示したうえで、本人の同意を得る必要があります。また、オプトアウト方式による第三者提供は認められていません。
取得した後は、厳重な管理体制を整え、アクセス権限を制限するなど、漏えい防止策を講じることが重要です。
それでも、情報漏えいやそのおそれが発生した場合は、速やかに本人へ通知し、必要に応じて監督機関への報告を行うことが求められます。
健康診断結果を扱う人事担当者は、こうした法的な位置づけを理解し、社内での情報管理体制を明確にしておくことが大切です。
健康診断結果を会社はどこまで把握できるのか
会社は従業員の健康診断結果を一定の範囲で把握する必要がありますが、すべての情報を無制限に確認できるわけではありません。所属部署、担当業務、役職などに応じて、閲覧・把握できる範囲が明確に制限されています。ここでは、どの立場の人がどこまでの情報を把握できるのかを解説します。
産業医・保健師
産業医や保健師は、健康診断結果のすべての情報を閲覧・把握できます。産業医は従業員の健康状況を踏まえて就業上の意見を述べる必要があり、全項目を把握することが求められます。
保健師についても、保健指導や健康相談を実施する際に診断結果の内容を基に対応するため、全体の情報を把握しておく必要があります。これにより、より効果的な健康指導やサポートが可能になります。
人事担当者
人事担当者は、健康診断データの管理や運用を担当する職員に限り、結果の閲覧が認められています。同じ人事部門に所属していても、健康診断業務に直接関与していない職員は閲覧できません。
また、健康診断の結果で「異常の所見がある」 と判断された従業員に対して就業制限や配置転換を検討する場合にも、必要な範囲で結果を確認することが可能です。ただし、いずれの場合も閲覧できるのは業務遂行上、必要最小限の範囲にとどめることが原則です。
上司・経営者
上司や経営者は、個人を特定できる形で従業員の健康診断結果を閲覧することはできません。従業員のプライバシー保護の観点からも、個別情報へのアクセスは厳しく制限されています。
ただし、組織全体や部署単位での健康状態の傾向を把握することは可能です。個人を特定できない統計情報に基づき、職場環境の改善や健康管理施策の立案に活用することが認められています。
健康診断結果の適切な取り扱い方法
健康診断結果を扱う際は、情報漏えいが発生しないよう細心の注意が必要です。ここでは、適切な取り扱い方法について具体的に説明します。
鍵のかかる場所に保管する
健康診断結果を紙媒体で保管する場合は、他の従業員が誤って閲覧・持ち出しできないように対策を講じる必要があります。通常の書類と同様に保管していると、意図しない閲覧や紛失のリスクが高まります。
安全に保管するためには、鍵付きの書庫やキャビネットに収納しましょう。また、鍵は閲覧権限のある担当者のみが保有するよう管理することが大切です。
アクセス権限を設定する
健康診断結果をデータで保管する場合は、アクセス権限を明確に設定する必要があります。業務に関係のない従業員が閲覧できないよう制限を設けることで、プライバシーを保護できます。
人事担当者がアクセスできる範囲は、業務上必要なデータのみに限定しましょう。担当者によって職務内容が異なるため、個別のアクセス権設定が求められます。
アクセスログを保存する
健康診断結果へのアクセス状況を把握できるよう、ログの記録と保存を行うことも重要です。いつ、誰が、どのデータにアクセスしたかを確認できる環境を整えておけば、不正閲覧の防止や情報漏えい時の原因究明に役立ちます。
万が一、不審なアクセスやパスワード漏えいが発生した場合でも、迅速に対応できる体制を整えておきましょう。
受領後の流れを明確にしておく
健康診断結果を健診機関から受け取った後、または従業員から提出を受けた後の流れを明確に定めておくことが大切です。管理手順があいまいだと、データの紛失や誤廃棄などのトラブルが生じるおそれがあります。
受領から保管、共有、廃棄までのプロセスを文書化し、誰がどの段階を担当するのかを明確にしておきましょう。また、保管期間が経過した後は、データ削除や書類廃棄を適切に実施する必要があります。この対応もルール化し、担当者間で共有しておくことが重要です。
さらに、管理方法が属人的にならないよう、複数の担当者が全体のフローを把握できる体制を整えておきましょう。
まとめ
健康診断結果は、従業員の健康を守るうえで欠かせない大切なデータです。その一方で、要配慮個人情報に該当するため、取り扱いには十分な注意が求められます。産業医や保健師はすべての情報を把握できますが、人事担当者が閲覧できるのは業務上必要な範囲に限られます。関係のない従業員が無断で閲覧することのないよう、適切な体制や保管方法を整えておきましょう。
しかし、健康診断に関する業務は煩雑で、人事担当者の負担になりがちです。ウィーメックスでは、健診代行サービスを通じて、健康診断関連業務を包括的にサポートしています。健診結果の回収・管理・電子化などをまとめてアウトソーシングできるため、担当者の負担軽減と業務効率化を実現できます。
健康診断業務をよりスムーズに進めたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。