目次
ヘルスリテラシーとは
まず、ヘルスリテラシーとは何を指すのかを確認し、高い人と低い人の違いについても見ていきましょう。

ヘルスリテラシーの意味
ヘルスリテラシーとは、健康に関する情報を理解し、自身の健康管理に活かす力のことです。 単に情報として知っているだけでなく、実際に行動へと移せているかどうかも重要です。健康知識を持っていても、実践できていない人は少なくありません。身につけた知識を行動に反映できてこそ、真のヘルスリテラシーがあるといえます。
ヘルスリテラシーが高い人と低い人の違い
ヘルスリテラシーが高い人は、数多くの健康情報の中から信頼できる情報を見極められます。一方、ヘルスリテラシーが低い人は、巷の健康法や噂をそのまま信じてしまう傾向があります。誤った情報が含まれていても見抜けない場合が多いのです。
また、日常の生活習慣にも大きな差があります。ヘルスリテラシーが高い人は、健康的な習慣を自然に続けていますが、低い人は一時的に取り組んでも長続きしないことが多くあります。
さらに、健康診断やがん検診の重要性に対する理解度の違いも、受診率に影響します。ストレスへの対処法についても、ヘルスリテラシーの高低で大きな差が見られます。
行動変容とは
行動変容とは、考え方の変化に伴って行動や日常の習慣を見直し、望ましい方向へと変えていくことを指します。自分の行動や生活習慣に課題を認識し、自発的に修正しようとするプロセスです。
この言葉はもともと1980年代に禁煙支援の場面で用いられたことに始まり、のちに病気予防や健康づくりなど医療分野全般に広まりました。現在ではビジネスの現場でも活用され、人材育成の観点からも行動変容を促す取り組みが注目されています。
行動変容が起こるまでのプロセス
行動変容は一朝一夕に起こるものではありません。複数の段階を経て考え方が少しずつ変化し、それが行動として現れていきます。ここでは、無関心な状態から行動変容に至るまでの一連のプロセスを紹介します。
無関心期
無関心期は、行動変容の前段階にあたり、まだ自分の行動を変えようという意識がない状態です。自分の生活習慣に健康上の問題があっても、その重要性に気づいていない場合が多くあります。
情報が不足して現状を正確に把握できていなかったり、過去の挫折経験から関心を持とうとしなかったりするケースも見られます。
関心期
関心期では、ようやく問題意識が芽生え始めます。ただし、まだ行動には移しておらず、情報収集も簡単な範囲にとどまります。おおむね6か月以内には行動したいと考える段階で、実践への関心はあるものの、心理的・環境的な障壁に迷うこともあります。ここで行動への意志を固めることが次のステップへの鍵になります。
準備期
行動する意思が明確になり、具体的な目標設定や計画づくりを進める段階です。1か月以内に行動を開始する意欲を持ち、健康的な食事メニューの情報を集めたり、フィットネスジムに入会したりといった具体的な準備を行います。行動によるメリットを理解しており、実践への土台が整っている状態です。
実行期
実行期は、計画を実際の行動に移している段階です。食事改善や運動の習慣づけなどを始めていますが、まだ定着はしていません。効果を実感しにくかったり、モチベーションが揺らいだりすることもあり、継続が課題になります。
ここで周囲からの支援があれば、続けられる可能性が高まります。小さな成功体験を積むことが、習慣化への推進力になります。
維持期
維持期は、行動を6か月以上継続できている状態です。実行期と比べて気持ちの揺らぎが少なく、行動が自然と習慣化しています。健康的な食事や運動を当たり前として生活できるようになり、数値改善や体調の変化などの成果も感じられます。この段階に到達して初めて、行動変容が実現したといえます。
従業員のヘルスリテラシーを向上させる方法
従業員のヘルスリテラシーを高めるには、人事部門が中心となり、全社的に継続的なサポート体制を整えることが重要です。ここでは、効果的な取り組みのポイントを紹介します。
社内全体で施策に取り組む
ヘルスリテラシー向上施策は、一部の部署に限定せず、全社的に行うことが効果的です。多くの従業員が参加することで「自分もやってみよう」という意識を生み出し、健康意識が低い層への波及も期待できます。
身近な同僚や上司の実体験も大きな効果をもたらします。行動変容に成功した経験を共有すれば、他の従業員も前向きに取り組むきっかけになります。失敗体験の共有も共感を呼び、行動への心理的ハードルを下げる助けになります。
また、社内にヘルスリテラシーの高い従業員がいると、自然と良い影響が広がっていきます。
自己効力感を高めるための施策を講じる
自己効力感とは、「自分にもできる」という自信を持てる感覚です。成功体験がその基盤になりますが、必ずしも実体験でなくても構いません。
代理的体験として、同僚が健康的な行動を続けて成果を上げている様子を目にするだけでも、自分にもできそうだという実感を得られます。また、上司や同僚からの励ましや言葉によるサポート(言語的説得)も、ポジティブな感情を引き出します。
自己効力感が高まると健康行動への意欲が向上し、ヘルスリテラシー向上の好循環が生まれます。
ヘルスリテラシー教育を実施する
健康に関する知識を正しく理解し、日常で活かせるようにするためには、継続的な教育が効果的です。社内セミナーやワークショップ、オンライン研修など、自社に合った形式で実施しましょう。
主なテーマとしては、食事・運動・睡眠といった基本的な健康知識に加え、ライフステージ別の健康管理やメンタルヘルスケアなどを含めるとより実践的です。
社内環境を整える
従業員が健康を意識しやすい環境を整えることもポイントです。社員食堂で低カロリー・減塩メニューを提供する、飲料にヘルシーな選択肢を設けるなど、日常的に“選びやすい健康”を作りましょう。
また、福利厚生としてフィットネスジムの利用補助を行うなども効果的です。健康行動への参加ハードルを下げることで、自然と行動変容を後押しできます。
経営層から発信を行う
経営層の行動やメッセージは、従業員全体の意識に大きく影響します。経営層自ら が健康的な取り組みを実践し、その様子を社内で積極的に共有することで、企業全体に前向きなムードが広がります。
トップが「健康経営®」を自ら体現することで、従業員は自分ごととして捉えやすくなり、ヘルスリテラシー向上の取り組みが一過性で終わらず、持続的な文化として根づくようになります。
従業員の行動変容を促すメリット

ヘルスリテラシーが高まった従業員は、日常生活の中で健康的な行動を意識的に選択するようになります。ここでは、従業員の行動変容を促すことによって企業にもたらされる主なメリットを紹介します。
生活習慣病や精神疾患の予防
行動変容を起こした従業員は、食生活や運動習慣、睡眠などの生活リズムを整えるようになります。これにより健康を損なうリスクが減少し、生活習慣病の予防につながります。
また、ストレスマネジメント力も高まるため、精神的な安定を維持しやすくなります。身体面・精神面の両方で異変を早めに察知し、自ら予防的な行動を取るようになることで、重症化を防ぎやすくなります。
医療費削減
従業員が心身の健康を維持できると、医療機関の受診回数が減少し、企業全体の医療費を抑制できます。自社健康保険組合を持つ企業では、財政基盤の安定化にも寄与します。
さらに、健康状態が良好な従業員は集中力や判断力を保ちやすく、労働災害や業務上のミスを防止できます。メンタルヘルスケアの強化もあわせて行うことで、精神的不調による休職や労災の発生を抑える効果も期待できます。
健康診断受診率の向上
ヘルスリテラシーが高い従業員は、健康診断の価値を理解し、自主的に受診する傾向があります。これまで受診を後回しにしていた従業員でも、健康意識の高まりにより積極的に受けるようになるでしょう。
定期的な受診によって健康リスクを早期に発見でき、病気の重症化を防げる点が大きなメリットです。企業側としても、従業員の健康保持に向けた予防的アプローチを強化できます。
生産性やエンゲージメントの向上
健康な状態で働く従業員は集中力や意欲が高く、仕事のパフォーマンスが向上します。行動変容を支援する取り組み自体が「社員を大切にしている」という企業姿勢として伝わり、組織に対する信頼感や貢献意識が高まります。
結果として、従業員エンゲージメントの向上、離職防止、生産性の向上といった好循環が生まれ、企業価値の向上にもつながります。
従業員の行動変容を促すうえでの注意点
従業員の行動変容を促す施策は、実施方法や伝え方によって効果に大きな差が生じます。ここでは、取り組みを成功させるために押さえておくべきポイントを解説します。
個人情報や健康情報の扱い
人事部門では、施策運営の過程で従業員の個人情報や健康情報を扱う場面が多く発生します。さらに、外部の医療機関や委託業者と連携して実施するケースもあるため、情報漏えいには十分な注意が必要です。
健康情報を外部機関に共有する場合には、必ず対象となる従業員から事前に同意を得ましょう。企業としてのコンプライアンスと信頼確保の観点からも、情報管理体制の整備は不可欠です。
押しつけにならないようにする
あらゆる従業員が積極的に健康施策に参加するとは限りません。中には「面倒」「やらされている」と感じて抵抗を示す人もいます。こうした状態では逆効果になり、行動変容から遠ざかる可能性があります。
従業員の主体性を尊重し、自ら参加したいと感じられるような仕掛けを工夫しましょう。たとえばポイント制度やチーム制の導入など、楽しみながら継続できる要素を加えるのがおすすめです。
年代・性別・職種を考慮した方法で行う
ヘルスリテラシー向上施策は「全員一律」では効果が限定的です。年代や性別、職種ごとに健康課題が異なるため、それぞれに合わせた内容設計が求められます。
たとえば、50歳前後の従業員には更年期を意識したセルフケア支援を、デスクワーク中心の職種には運動不足対策を、シフト勤務が多い職種には生活リズムの整え方を中心に取り入れるなど、ターゲット別の最適化が重要です。
効果測定を実施する
施策の成果を明確に把握するためには、定期的な効果測定を欠かせません。医療費の推移、健康診断受診率、喫煙率といった定量的データに加え、アンケートによる意識面の変化など定性データも組みあわせて評価します。
測定結果から十分な効果が得られていない場合は、原因を分析し、施策内容や実施方法を改善していくことが大切です。このPDCAサイクルを重ねることで、より実効性の高い取り組みへと発展させられます。
まとめ
従業員のヘルスリテラシーを高めることで、正しい健康知識が定着し、行動変容を通じて生活習慣病の予防やメンタルヘルス維持につながります。結果として、企業にとっても医療費削減や健康診断受診率の向上、生産性向上などのメリットが得られます。
健康経営の実現には、従業員が主体的に健康に向き合える環境づくりが不可欠です。
ウィーメックスでは、健診代行サービスを提供しており、健康診断に関わる手配から結果管理までを一括サポートし、企業の業務負担軽減と従業員の健康意識向上を支援します。従業員のヘルスリテラシー向上と健康経営推進に役立ちますので、ぜひお問い合わせください。
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