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企業が感染症対策に取り組む必要性
多くの従業員が同じ空間で働く企業では、感染症対策が欠かせません。アフターコロナといわれる現在でも、インフルエンザや季節性ウイルスなどの流行が続く可能性があり、日常的に感染症対策へ取り組むことが重要です。
ここでは、企業が感染症対策に取り組むべき理由とその重要性を解説します。

安全配慮義務
労働契約法第5条では、企業に「安全配慮義務」が課されています。安全配慮義務とは、従業員の生命や健康を守り、安全に働けるよう必要な配慮を行う義務のことです。
(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
出典:e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)
感染症リスクへの対応もこの義務に含まれます。そのため、企業は消毒や換気、在宅勤務の導入など、職場での感染予防措置を講じる必要があります。
対策を怠った結果、職場環境が原因で従業員が感染した場合には、損害賠償や慰謝料を請求されるおそれもあります。金銭的な負担だけでなく、企業の社会的信用を損なうリスクもあるため、法的観点からも感染症対策は欠かせません。
関連記事:安全配慮義務とは?根拠となる法律や事例、取り組み方を解説
従業員の健康管理
感染症対策とは、単にウイルスの侵入を防ぐだけではなく、従業員の健康状態を把握し、早期対応につなげることが重要です。感染リスクを抑えられれば、体調不良による業務効率の低下を防ぎ、組織全体の生産性維持への貢献も期待できます。
従業員の健康管理や早期対応を実現するためには、次のような取り組みが効果的です。
- 体温チェックの実施
- 非接触型体温計・サーモカメラの導入
- 休暇取得の柔軟化
- 体調不良時の行動フローの作成・周知
- 健康情報の確認
また、体調不良の従業員が無理に出勤しない仕組みづくりも欠かせません。これにより感染拡大を防止し、従業員が安心して働ける職場環境の整備につながります。
関連記事:従業員の健康管理とは?課題とメリット、健康管理の方法とポイントを紹介
クラスター発生の防止
クラスター(集団感染)とは、企業内で感染症が広がり、一定数以上の感染者が発生している状態を指します。オフィスや工場など、多くの人が密集して働く職場では、クラスターが発生しやすくなります。
一度クラスターが発生すると、業務の停止や企業イメージの低下など、経営への影響は大きくなります。これを防ぐために、次のような対策を講じることが重要です。
- 出勤シフトの分散・人数制限:リモートワークや交替制勤務を導入し、同時出社人数を減らす
- 物理的距離の確保:パーテーションの設置や座席間隔の確保
- 会議のオンライン化:対面会議をできるだけ避け、オンライン会議を活用する
- 換気の徹底:「30分ごとに2分間」などのルールを定め、アラームなどで実施を管理する
- 共用スペースの清掃・消毒:ドアノブやコピー機など、複数人が触れる箇所を定期的に消毒する
BCPとしての感染症対策
BCP(事業継続計画)とは、自然災害や火災などの緊急時においても、事業を継続し早期復旧を可能にするための計画を策定し、平常時から運用体制を整備しておく取り組みです。
感染症も地震や災害と同様に、企業経営を揺るがすリスクとなる可能性があるため、BCPにおいても感染症対策を盛り込む必要があります。もしBCPが不十分なまま感染が拡大し、多くの従業員が出勤できなくなれば、事業の継続が難しくなるおそれがあります。
そのため、平常時から「誰が感染しても業務が回る体制」や「迅速な情報共有ルート」を定め、定期的に緊急時対応の訓練を行うことが重要です。こうした準備をしておくことで、感染症が拡大した場合でも、迅速に対応し事業への影響を最小限に抑えることができます。
職場における感染経路
職場における主な感染経路は、次の3種類です。
- 接触感染
- 空気感染
- 飛沫感染
どの経路から感染するかは感染症によって異なります。それぞれの特徴を理解し、自社の業務形態に合わせた適切な対策を講じることが重要です。
接触感染
接触感染とは、病原体に汚染された物や場所に触れた手で、目・口・鼻などの粘膜に触れたり、飲食をしたりすることで感染する経路です。職場では、不特定多数の従業員が利用する共有物を介して接触感染が起こるリスクが高くなります。
共有物の例は次のとおりです。
- 共用部のお手洗い、給湯室
- ドアノブ、エレベーターのボタン
- 共用の電話機、コピー機の操作パネル
- 会議室の机や椅子、ホワイトボードのマーカー
- 来客用スリッパや筆記用具などの備品
空気感染
空気感染は、感染している従業員の飛沫から水分が蒸発し、空気中を漂う微細な粒子(エアロゾル)となった病原体を吸い込むことで起こる感染経路です。代表的な感染症として、麻しん(はしか)や結核などが挙げられます。
感染者の近くにいなくても、同じ空間内にいるだけで感染する可能性がある点が特徴です。とくに密閉されたオフィス空間では、空気感染リスクを完全にゼロにはできないため、換気や人の滞在時間の管理など、日常的な注意が求められます。
飛沫感染
飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみ、会話などによって飛び散ったしぶき(飛沫)を、周囲の人が直接吸い込むことで起こる感染経路です。
飛沫は通常、数メートル程度まで飛ぶと言われており、感染者の近くにいる従業員はもちろん、ある程度距離を取っている従業員にも感染リスクがあります。席の配置、会話の仕方、マスクの着用などを含め、日常の業務シーンを踏まえた対策が重要になります。
季節ごとに気を付けたい感染症

感染症には、気温や湿度など季節ごとの環境変化によって流行しやすい時期があります。季節ごとの特徴を押さえ、想定される感染症に応じた対策を準備しておくことが大切です。
以下に、季節ごとに流行しやすい主な感染症と、代表的な対策をまとめました。
| 季節 | 特徴 | 流行しやすい感染症 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 春 | 寒暖差が大きい | インフルエンザ、風邪 | 寒暖差対策、マスク着用、手洗い、室内の温度管理 |
| 夏 | 気温・湿度が高い | 食中毒、ノロウイルス | 食品・飲料の温度管理、調理前の手洗い徹底、水分補給 |
| 秋 | 気温が下がり、乾燥しがち | RS ウイルス、風邪、インフルエンザ | 室内の乾燥対策(加湿)、十分な睡眠と栄養 |
| 冬 | 寒さが厳しく、体調を崩しやすい | インフルエンザ、ノロウイルス | 加湿と温度管理の徹底、マスク着用、手洗い・うがい |
職場でできる感染症対策例
従業員の健康を守り、事業への支障を防ぐためには、企業として計画的に感染症対策に取り組むことが重要です。ここでは、職場で実践しやすい感染症対策を4つ紹介します。
マスクの着用や手洗いの推奨
マスク着用や手洗いは、感染経路を遮断し、病原体を体内に取り込まないための基本的な対策です。職場全体でこれらの行動を推奨し、日常的な習慣として定着させましょう。
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マスクの着用
感染している従業員からの病原体拡散を防ぐと同時に、周囲の従業員が飛沫を吸い込むリスクも下げられます。職場内の感染状況や季節要因に応じて、マスク着用を促すルールを設けるとよいでしょう。企業側でマスクを備蓄し、必要なときにすぐ配布できる体制を整えておくことも有効です。 -
手洗いの推奨
共用備品の使用後や会議の前後、外出から戻ったときなど、こまめな手洗いや手指消毒を徹底します。ポスター掲示や社内周知を通じて、手洗いの重要性や正しい手順を啓発し、従業員の意識向上を図りましょう。ペーパータオルの導入やゴミ箱の分別配置など、接触機会を減らす工夫も効果的です。
定期的な消毒や清掃、換気
定期的な消毒や清掃、換気を行い、職場環境を清潔かつ衛生的に保つことも重要な感染症対策です。
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消毒
ドアノブ、コピー機、自販機のボタンなど、多くの従業員が触れる共有箇所は、担当者を決めて定期的にアルコール消毒を行います。足踏み式の消毒液スタンドや腕で開閉できるドアノブアタッチメントなど、非接触で利用できる設備を導入するのも有効です。 -
清掃
飛沫が付着しやすい場所や、ほこりが溜まりやすい箇所など、感染源が集まりやすいポイントを意識して重点的に清掃します。デスク周りや会議室、休憩スペースなど、利用頻度の高い場所ほど丁寧な清掃が求められます。 -
換気
「30分ごとに2分間」などの換気ルールを決め、タイマーやアラームを活用して実施忘れを防止しましょう。必要に応じて空気清浄機や加湿器も併用すると、空気環境の改善に役立ちます。
ワクチン接種
インフルエンザなどのワクチン接種を企業として推奨することは、感染予防だけでなく、感染した場合の重症化防止や、社会全体での流行抑制にもつながります。とくに、従業員が安心して接種できる環境を整える取り組みは、健康経営®の観点からも重要です。
具体的には、次のような取り組みが挙げられます。
- ワクチン接種を社内で実施する
- ワクチン接種費用を補助する(費用の一部負担を含む)
- ワクチン接種の時間(家族の予防接種への付き添いを含む)を就業時間として扱う、または有給の特別休暇を付与する
- ワクチンに関する教育・研修を実施する
健康保険組合による補助制度が利用できる場合は、その内容を従業員に周知するとよいでしょう。なお、体質などの理由からワクチン接種が難しい従業員もいるため、副反応への配慮を含め、個々の事情に十分留意しながら制度設計を行うことが大切です。
従業員が分散する仕組みづくり
従業員同士の密集や接触の機会を減らすことができれば、職場内での感染拡大リスクを抑えられます。一か所に人が集まりにくい働き方や、設備の利用ルールを整えることがポイントです。
たとえば、次のような取り組みが有効です。
- テレワーク・リモートワークの推進
- オフィスの分散化・縮小(サテライトオフィスの活用など)
- 会議のオンライン化
- 休憩時間や社員食堂の利用時間の時差化
- 座席間の距離確保やレイアウトの見直し
これらを組み合わせて運用することで、平常時から「密」を避けやすい環境をつくり、感染症が流行した際にも柔軟に対応しやすい職場づくりにつながります。
関連記事:【2026年度版】健康経営優良法人の変更点と認定取得のポイント
まとめ
感染症対策は、従業員の健康管理だけでなく、企業の社会的信用や事業継続性を守るうえでも欠かせない取り組みです。感染症の種類や感染経路の違いを踏まえ、手洗いや消毒、テレワークなどを組み合わせた多角的な予防策を継続的に実施していきましょう。
クラスターの発生を予防するためには、従業員一人ひとりの免疫力や健康状態の把握も重要です。従業員の体調変化に早く気付くためにも、定期的な健康診断を継続的に実施することが求められます。
ウィーメックスでは、健康診断の事務代行サービスを提供しています。代行サービスを活用することで、健康診断に関わる事務負荷を軽減しつつ、より本質的な感染症対策の検討・推進に時間を割くことができるでしょう。ぜひお問い合わせください。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。